最終章(4/7)


通路を真っ直ぐ駆け抜けた先に、その中庭は在った。
大きな建物の中央をくり抜いた様になっており、屋根は無く吹き抜けになっている。
噴水やプール、カフェスペースまで備えられた、随分と広い庭園である。
ただ今は昼間と違い、遠くの月と星々が夜空の遠くを静かに照らしているばかりである。
ガーデンテーブルのパラソルも、今はひっそりと畳まれていた。

「おや、来ましたね」

ばたばたと中庭の入り口に現れた、いくつかの影。
その様子を見ていたのはカイゼル髭の男と、オレンジ色の派手な髪色の少年。そして、先程こちらへ逃げて来たジュナイパーであった。……ニューラは、ジュナイパーの腕の中でぐったりしている。
そして、その傍には。

「ゆのちゃん!! 智秋くん!!」

叫んだミツキだったが、目の前の光景に思わず、ひっ、と小さな悲鳴を上げた。
ふたりが四肢を拘束され、跪いている。
ゆのの背後には、オレンジ色の髪の少年が。そして智秋の後ろにはカイゼル髭の男が――――なんと拳銃を突き付けて立っていた。

「みつみつ、ごめーん。つかまっちゃったー……って、あれ。みんないる。なんで?」

「あっ、ミツキおねえちゃーんだー! おおーい!」

ただ困ったことに、ふたりとも本当に、全く緊張感のない声でこちらに反応を示している。
それにはミツキ達だけでなくカイゼル髭の男達も同じく困惑している様で、やれやれといった風に肩をすくめた。
そんなカイゼル髭の男に、ミツキは見覚えがあった。
パーティ会場で乾杯の指揮をとり、疲弊した自分とゆのに冷たいミントウォーターを持ってきた人物だ。
その男が、今。一体、何故。

「どうして……! どうして貴方がこんなことをするんですか!? ……ふたりを返して!!」

勇気を振り絞って放った言葉。
しかし男が揺らぐことはなく、くすくすと笑って返した。

「ふむ、どうして……ですか。ふふ。良いでしょう、お嬢さん。可憐な貴女に免じて、全て説明してさし上げましょう」

智秋の後頭部に拳銃を突けたまま、男は話し始める。

「まず、私達が欲しいのはこの子どものジュペッタが持っている指輪……ピンクサファイアの婚約指輪です。……彼、手癖が悪いですねえ? 私達の部屋から、この大事な指輪を盗んでしまったんですよ」

「え、ええっ?」

信じられない、とミツキが智秋の方を伺う。
しかし智秋はというと、ひどくばつの悪い顔をして口をつぐんでいる。どうやら本当のことのようだ。
だから置いてきた方がいいって言ったのにぃ……と、小さく呟いたのは黎明だった。

「ちなみに彼が持っている指輪は偽物なんですよ。中にGPSが仕込まれた、我々特性の婚約指輪です」

「ええーっ。これ、にせものなのーっ!?」

そう言って智秋は、ころ、と口の中で何かを転がした。
陽が、まさか、と思いながら問う。

「智秋お前、その指輪を口の中に……?」

先に応えたのは男の方だった。

「そうなんですよ、全く……。無理に奪おうとすると、指輪を飲み込むぞなどと言われましてね……。私達も、ほとほと困り果ててるんですよ……」

カイゼル髭の男は、本当に参ったといった顔をしている。

「なんで智秋くん、そんなものを……。しかも、こ、婚約指輪だなんて……」

ミツキは未だ信じられないといった様子で、智秋に問いかける。

「だって、だって。このゆびわ、このおじさんのものじゃないんだよ……? もっとやさしそうな、おんなのひとが、つけてたんだもん……」

そして、ばっ、と智秋が男の方へ振り向く。銃口が、彼の額に当たった。

「それにこのゆびわ、にせものなんでしょう? にせものなのに、どうしてそんなにひっしになるの……! なにか、わるいことにつかおうとしているからでしょう!? ねえ!!」

ぴくり、と男の目元が震えた。

「やっぱり、そうなんだ……」

ぎり、と智秋が男を睨みつける。銃口越しでも、その鋭さは変わらなかった。
カイゼル髭の男は智秋を一瞥すると、はあ、と息を吐いた。

「分かりました。では取引です」

「え……?」

かちゃり、と男は拳銃の先を智秋から離した。そして。

「あ……」

その銃口は、ゆのの額へと向けられた。


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