妙な夢を見た。
昔のこと、しかもオッサンのことを夢に見るなんて、今日は厄日かな。
そんなことを考えながら痛む体を起こすと、おなかに乗っていた何かがコロリと地面に落ちた。
「あ?」
『うぅ〜ん?』
茶色い生き物は眠そうな声を上げて大きな目を開く。パチリとあった視線に瞬きをすると、茶色い生き物、ミネズミがふにゃりと笑った。
『おはよぉ』
「きゅい」という鳴き声とともに頭に流れ込むヒトの言葉。このミネズミが喋るのではなく、自分の耳がおかしいのだと気づいたのはいつだったか。見知らぬ孤児院から引き取られた僕は、なぜか、ポケモンというフィクションはずだった世界に紛れ込んでいた。
前の世界に帰りたいという思いも芽生えず、この世界でだらだらと過ごすこと数年……今日は、オッサンの外出に付き合わされるのを回避するため、家のあるブラックシティから離れた森の中で昼寝をしていたところ。で、
「なんでキミはまた僕の膝に乗ろうとしてるの」
『え〜だめ?』
「重いんだよ」
『わあ〜』
ころんころんと転がっていくミネズミを無視して、携帯端末をポケットから取り出した。最近ではライブキャスターとかが主流らしいが、僕は少し前の、前の世界でも使っていたスマートフォンに似た端末を使っている。
オッサンからの着信通知をすべて消し、今日の天気を見つつ最近のニュースをチェックする。
『今日はなにみてるの〜?』
「いつものつまらないニュース」
膨らんだ柔らかい頬をつついてやるとくすぐったそうに地面を転がるミネズミ。オッサンから逃げるためにこの森で昼寝をしているとよく会うポケモンの一体。毎回寝ている僕の腹に乗ってくる図々しい奴だ。
『ぼくのお話もきいて〜!』
「暇だから聞いてあげるよ」
ミネズミはこうして今日はモモンのみが美味しかったやら、木に登っていたら風で飛ばされそうになっただとか、くだらない話をいつもしてくる。人間が起こすくだらないニュースを見ているよりは、まぁ悪くない時間だ。
『でもね、最近あんまりよくないの』
「なにが」
『ニンゲンがこの森でポケモンを捕まえてるっておかあさんが言ってたの』
悲しそうな表情をしてミネズミは僕の手を握る。それから逃げるように手を避け、ミネズミの頭の上に置いてやる。
「普通なんじゃないの?」
ふさふさした頭を撫でながら、よくあることだと流す。この世界ではモンスターボールという道具でポケモンを捕まえて、ポケモン同士を戦わせたり、着飾ったりして技の魅力を競ったりする施設なんてものもあるんだし。
『んーん、ニンゲンがよく使う丸いのじゃなくて、もさもさしてるやつで包まれたり、ヘンテコな箱に入れられたりするって聞いたよ』
「……もしかして、」
パァンッ!
「!」
『!』
大きな風船が割れた様な音に、ビクリと肩が跳ねた。
突然森の中に響いた大きな音に驚いて、頭上を通過していくマメパトたち。それを眺めながら、結構近いんじゃないかとぼんやり考える。
『あっ、あの音!この前も聞いた、怖いニンゲンが使う道具の音!』
バトルか何かの音かと思ったが、ミネズミによるとそうでは無いらしい。
さっき浮かんだ考えが確信へと変わる。怖いニンゲン、ボールじゃない道具を使ってポケモンを捕獲する、そうなれば浮かんでくるのは面倒な奴らのこと。よくニュースでも話題になる。
「……ミネズミ、多分それはハンターって呼ばれる悪い奴らだよ」
『はんたー?』
「ポケモンを捕まえて悪いことに使う奴ら」
『えぇ!?』
驚いた顔をするミネズミの頭を撫でて空を見る。マメパトたちが飛んできたのは、携帯でコンパスを開いて確認すると、東。西の方へ行けば安全、って訳でもないか、ハンターが一人なんていう保証はない。面倒だけど、一応見知った奴らだし捕まって売り飛ばされた。なんて、寝覚めの悪い事態は避けたい。
「さっきの音は東の方から。他の子たちにも伝えて、ハンターは一人とは限らない、あたりを警戒して動くんだ。得意でしょ?」
『うん!わかった!きみは?』
「僕は様子を見てくる。面倒なのがいたら安心して昼寝もできないしね」
ミネズミの頭から手を離し、地面にほっぽいていた鞄を肩にかける。軽い鞄にはハンカチや水筒位しか入ってない。ハンターの数は未知、相手はおそらく銃を携帯している。うん、どう見ても無謀。
面倒ごとには手を出さないというのが僕のスタンスだったのに、こっちに来てから頭がおかしくなったようだ。ポケモンの声が聞こえたり。面倒ごとに自分から手を突っ込んだり。
「はぁ…バカだな」
『きみはとてもいい人だよ』
「ハッ、悪口として受け取っとくよ」
にこりと笑ったミネズミに背を向けて歩き出す。
さて、どうしようか。
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