03



「ふ、ぁ…」

鎖に繋がれた人、檻に入ったポケモン、高級店にありそうな宝石。これで一体何人、何体何個目だろうか。客が一方的に盛り上がり、檻の中の人やポケモンの反応は全部一緒。怯え、混乱し、泣き叫ぶ。
目当ての物はなし、だんだん眠たくなってきた。
商品の準備をしているのか幕も下がり、中休みに入ったようだ。そろそろ珍しい物的な感じでみかづきのはねが出てくれたら良いんだけど。ってそんなうまくいく訳が無い。

『人間はよくわからないな』
「まぁ、何に価値を見いだすかは人それぞれだし」
『俺も…あそこにいたかもしれないんだな…』

ハンターに捕まりかけて返り討ちにした。もう大分昔のことの用に思えるけど、つい二週間かそこらの話だ。あ、そういやミネズミとか無事だったのかな。無事か、逃げ足は速そうだし。

『少しぞっとする』
「僕に捕まって良かったねぇ」
『そうだな』
「……今のは僕が悪いな」
『何がだ?』
「なんもない」

「次は今回の目玉商品でございます!」
『目玉…』

司会者が高らかにそう宣言し、一度下がった幕がまたゆっくりと上がっていく。
きっとイルアの頭の中には、あの闇医者の研究室にあった目玉コレクションが浮かんでいるんだろう。色んな色をした目玉が所狭しと並んでいる気味の悪い部屋だ。二度と入りたくない。

「目ん玉じゃないからね」
『そうか』
「客寄せのための商品だよ。この辺りで羽がでれば楽なんだけど。いや、面倒かな」

なんだってあのオッサンは羽なんて探してるんだか。って何回思ったか。一周回ってどうでも良くなりそうだ。

「では、お見せしましょう!」

スポットライトが当たる。幕が上がる。
檻が見えて、ああ、ポケモンか。なんてのんきに眺めていると、会場からちらほらと感嘆の声が上がる。おそらく双眼鏡やらを使っている客だろう。
商品を大きく見せるために付けられたモニターに目をやると、紫色と黄色の猫のようなポケモンが見えた。
ピンと伸びた髭に、きちんと整えられた毛並み。

「レパルダスの瞳は本来、エメラルドのような美しいグリーンですが、このレパルダスは違います!見てくださいこの美しいルビーのような赤い瞳、そして、サファイアのごとく閃く青い瞳!」

色の違う、二つの瞳がモニターに映る。
会場の声はどんどん広がり今日一番の盛り上がりだ。

「美しい!どうなっているのだ?あの瞳は!」
「素敵。あの子欲しいわお父様!」
「作り物ではないのかね?そうで無いのならば是非手に入れたい美しさだ」
「ありゃあ高く売れるだろうな…」
「宝石でも埋め込んでいるのか?いや、それにしても美しい」

美しい、綺麗、欲しい。そんな声が多く聞こえる中、赤と青が客を睨み付けるように、何かを諦めるように、笑った。

「…………あれ」
「んん?」
『シウン?』

ボールの中のイルアと、隣に座るカキハラが首を傾げた。
気づけば僕は立ち上がっていて、一瞬何がしたいんだっけと考える。ああ、そうだ。

「イルちゃん、あれ貰って行こう」
『!?』
「! ひひっ、おもろい子だ!ならカキハラにおまかせあれっ!ついでにお仕事だ!」
「は?」

跳びはねるように席を立ったカキハラは、ゴーグルを押し上げニッカリと笑う。そして、ポンッと白い煙がカキハラを包む。擬人化を解いたときや原型から人型になるときに出る煙、それが晴れると、耳元でパチンと何かが弾ける音がした。煙が晴れた場所にカキハラはいない。その代わりのように、小さな芝刈り機が落ちている。

『ビビビ〜!っと!カキハラそのままスタイル!』
「!ロトム」
『大正解のピンポン〜!』

にししと笑みを浮かべる小さな電気の固まりのようなポケモン、ロトム。ロトムの生態は携帯を出して調べるまでも無く、機械に入って悪さをするポケモン。大体はそう聞く。
芝刈り機があると言うことは、カキハラはそれに入っていたのだろう。というか芝刈り機もまとめて人になるのか…。

『びびっ、じゃあパーティータイムをはじめよーうっ!!』
「っ、」

パリ、と電気が弾ける音がした。次の瞬間にはカキハラはいなくなっていて、その代わりに真上の照明がバチバチと音を立てている。照明機器の中に入ったのか。

「イルちゃん、お願い」
『……、わかった』

ボールの中のイルアが少し考えたあとに頷いた。その事に違和感を覚えたが、ブツンと会場すべての照明が消える。

「きゃぁああ!!」

誰かの叫び声が上がる。会場がざわめく。
カキハラがやったんだと理解して、ボールを投げる。ボールが弾け、青白い光が真っ暗な会場に稲妻のように走る。

「グルゥァア!」

イルアの声と共に会場全体が赤い、炎に包まれた。

「うわぁぁああ!!!火事だ!!」
「いやぁあ!助けて!」
「な、何が起きている!?なぜ急に火が!」
「ぎゃあぁ!燃える!止めてくれ!!」
「助けて!熱い!あぁあ!」

炎が人を焼いていく。真っ暗だった会場は赤い炎で照らされ、会場にいた人々が我先にと出口へと向かって走って行く。
そんな人々をぼんやり眺めていると、僕の周りも炎に包まれていく。が。

「あつ、くない…?」

炎に手をかざしてみるが、真っ赤な炎は僕の手を燃やすこと無く、煙のようにゆらりと形を変えていく。これがゾロアークのイリュージョン。幻を見せて住処を守ると図鑑には書いてたけど、なるほどこれは。幻だと分かっていても脳が熱いと感じ、汗が頬を伝う。

『シウン』
「あ、うん。すごいな」

服の袖で汗を拭い、ゆらゆらと揺らめく炎の中を舞台に向かって歩いて行く。不思議な感覚だ。燃やすことの無い炎に騙され、逃げ惑う人々。もちろん本物では無いのだからスプリンクラーが作動することも無い。そのためか、会場にいた人間達はさらに混乱し、誰が倒れようとお構いなしだ。

「なんなんだ貴様は!」

司会者の男がモンスターボールを手に持ち立ち塞がる。その表情は怒りに染まっていた。当たり前だ、せっかくの金儲けの場を壊されたんだ。
男がボールを投げるより早く、イルアに指示を出す。

「"つじぎり"」
「グルァ!」
「がぁっ!!」

イルアが素早く司会者に技を打ち込み気絶させる。つじぎりの急所率って人間の場合も有効なのかな。と、イルちゃんの早業に感謝しつつ、倒れた司会者の懐を探る。

「あった」

管理が甘い鍵の束を入手し、舞台の上に上がる。思っていたより高く、逃げ惑う人たちがよく見える。
コツンコツンとわざとらしく足音を立てて、舞台の中心に置かれた檻に近づいていく。驚きからか見開かれた赤と青が、僕を視界に映す。

「やあ、レパルダス…くんか、ちゃんかは知らないけど。気分はどうだい?」
『きみは…』

呆けた口から掠れた声が耳に届く。ジャラジャラと音を立てる鍵束を手首にかけ、檻の前にしゃがみ込む。赤と青の瞳が煌めいて思わず口角が上がる。
邪魔な仮面を脱ぎ捨てて、小さく息を吸い込んだ。

「僕はシウン。あの無様に逃げ惑う人間達と同じく、キミのことが欲しい人間だよ」



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