04



眩しい光が目を刺した。その一瞬感じた痛みにどうかこの目を潰してくれないか、なんて馬鹿なことを考えた。
幕が上がる。
ヒトの目が俺に集まっていく。

美しい、綺麗、欲しい。
聞き取れるのはそんな声ばかり、苛立ちばかりが頭の中を埋め尽くしていく。どんなにこいつらを睨み付けても、状況は何も変わらない。
俺には、この鉄格子を切り裂けるほどの力もない。目の前にいる人間たちを殺して逃げる勇気もない。自分の手を汚す決意が出来ない。

『だれか……っ』

こんな所に来てもまだ、俺はまだ希望を捨てきれないらしい。
ぎり、と歯を食いしばってみたが、すぐに力が抜けて馬鹿らしくなってくる。
希望なんて無かった。
親に目の色がおかしいと言われ捨てられた時。
変な人間に捕まって、更に目の色がおかしくなった時。
このおかしな目のせいでハンターに捕まった時。
何度も何度も叫んだ。助けてって。でも希望は、助けてくれる人は、現れなかったじゃないか。

『ははっ、ほんと…』

だったらもう諦めてしまえばいい。もっと早く、そうしていれば良かったんだ。
ありもしない希望を夢見て、助けを求めて。

『馬鹿だな』

そんな自分に笑えてくる。




「グルゥァア!」
『え、』

会場に重い、言葉にもならないうなり声が響き渡る。そして、そんな声が聞こえたかと思えば、次の瞬間には会場は火の海に飲まれていた。
甲高い女の叫び声、絶望に染まる男の瞳。舞台の上、檻の中からは慌てふためく客の様子がよく見えた。

『何が起こって!?』

檻の中からパニックになる会場を見渡す。人間たちが我先にと出口へ走っていく一方で、黒いポケモンが真っ赤なたてがみを揺らしてこちらを睨み付ける。氷のような瞳が明らかな敵意を示していてぶるりと全身の毛が逆立つ。

『ひ、っ』

なに、なんなんだ。思わず出た悲鳴を必死に飲み込んで、炎に包まれるポケモンを見やる。ポケモンがこっちから目を離し、トレーナーらしき仮面を付けた人間とこちらへ歩み寄ってくる。
真っ黒な服を着た人間は、黒いポケモンの顔に似た面を付けていて顔が分からないけど、司会者の男より小さいし子供なのかもしれない。でも、子供がこんな所で騒ぎを起こす理由が見当たらなくて、俺の頭の中も逃げていく客と同じように混乱していく。
この騒ぎに便乗して逃げてしまえば良かったな、いや、結局捕まってまた檻の中。そもそもこの檻を抜け出せないんだって。ぐるぐると色んな考えが頭の中を回っていく。

「なんなんだ貴様は!」

そんな叫び声にハッと我に返る。舞台の上に上がって来ようとする人間の前に、司会者の男が立ち塞がっているようだ。怒りからか全身を震わせ、相手を睨み付ける。人間も怒ったチョロネコと同じなんだな、とかのんきなことが頭によぎった瞬間には、司会者は床に倒れて懐を漁られていた。えっ、何が起こったんだろう。

「やあ、レパルダス…くんか、ちゃんかは知らないけど。気分はどうだい?」

呆然と司会者を眺めていると、いつの間にか檻の前に来ていた人間がフランクに話しかけてきて、檻の中で少し後ずさる。
この人間は一体何がしたいのか。客席からやってきたし、仮面も付けてるしこのオークションの客なのは間違いないだろう。
もしかして、なんて。一瞬頭によぎった考えを振り払うように歯を食いしばる。諦めるって決めたばかりじゃないか。
檻の前にしゃがみ込んだ人間が仮面を外す。
思っていたより、数倍も幼い顔が見えた。人間の年の取り方なんてよく知らないけど、目の前にいる人間は、俺が知っている人間よりずっとずっと幼くて、暗い色をした目が何も入っていないみたいで、どこかぎこちない笑みは少し不気味に見えた。

『きみは…』
「僕はシウン。あの無様に逃げ惑う人間達と同じく、キミのことが欲しい人間だよ」

俺を見ていない空っぽの瞳が笑いながらそう言った。


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