『きみも…俺のこの瞳しか見てないのか』
「ん、?んーー?うん?」
レパルダスくんー声が低いしオスと仮定してーがぽつりとつぶやいた言葉に、なぜか小さな引っかかりを覚えた。
「目…いや、うーん…」
『?』
「目かなぁ…視線?なんだろ?何だと思う?」
『な、なにが』
「僕がキミを見た理由」
『は?』
訳が分からないといった表情で僕を見るレパルダスくんに、そうだろうなと僕自身も心の中で頷く。この質問の意味が僕もわかっていない。でも。どこかに何かの答えがある気がして、頭の中をぐるぐる探し回る。
『俺の目の色じゃあ、ないの…?』
「め、あぁ…」
不安げな顔をしているレパルダスくんを改めてみると、モニター越しだったからよくわからなかったが、近くで見れば確かに本物の宝石と見紛うような綺麗な瞳だった。しかし、限りなく本物っぽいのに、どこか不自然な、どこかで見た色。
「綺麗だけど、そこじゃあな、」
『っ、』
レパルダスくんが目を見開き、また、表情が変わる。
「くて……、あ、顔かな。表情?面白い顔するよねキミ」
『え、は?顔?』
「感情がすぐに顔に出る。コロコロ変わって見てて面白いかも」
『えぇ…?』
困惑した表情。そういえば、最初に見たのはあの観客達に向けた諦めたような笑みだった。じゃあ、他の表情はどうなんだろう。
そう思った瞬間、あの質問とは全然関係の無い、言うべき正解が見えた気がした。
「ここよりもっといい物みせてあげる」
何の根拠もない嘘っぱちの言葉。いい物、なんて、こんな場所以外だったらどんな物でもいい物になる。そんなことは目の前の彼も分かっていただろう。だけど、宝石のような瞳に光が差し、キラキラと輝く。少しの期待をはらんだ瞳は僕をまっすぐ見ていて、次の言葉をまっていた。
ガチャンッと檻の鍵を開け、レパルダスくんに向け手を差し出す。
「僕とおいで」
『っ!』
伸ばした手に、そっと柔らかい肉球が乗る。ふにふにと柔らかい手を思わず握ってしまうと、驚いたのかレパルダスくんが飛び跳ねた。
『うっ!!?』
「おっ、」
ガシャンッ、檻が音を立てて揺れ、その上にレパルダスくんが乗っている。綺麗に整えられていた毛並みはハリセンボンみたいに、いやハリーセンみたいに広がっていて、口からは鋭い牙が覗いている。
『びっくりした!』
「ごめんて」
『あ、いや…こっちこそごめん、なさい…』
ばつが悪そうにまん丸だった背中を戻し、音も無く檻の上から降りてくるレパルダスくんを撫でる。お、これはイルちゃんとはまた違ったさわり心地。
『ところで、』
「やばやばのやばー!!」
「! なに…えっとロトムの」
「カキハラ!」
ああそうカキハラだ。人の名前を覚えるのが苦手だ、覚える気が無いだけかもしれないけど。
慌てて会場に戻ってきたカキハラは「やばいやばい」と言いながら、ステージの方へと走ってくる。ステージにたどり着いたカキハラの手に血がついていたのは見なかったことにしよう。
「警察ちゃんにばれちった!」
「は」
『えっ!?』
開口一番。とんでもない言葉が飛び出てきた。
警察、逮捕、やばい。頭の中にその3つだけがぐるぐると駆け回る。
「そーいうのはほんとに勘弁。あ、僕もうこれ犯罪者ってことになるのか!?」
『えっそういう人じゃなかったの!?』
「善良な一般人一般人。よし逃げよう」
『えぇっ!?』
「顔ばれ防止に仮面付けとこ。イルちゃん」
外した仮面を付け直してイルアの方を見るが。
『……』
「…イルちゃん?」
『なんだ』
明らかに不機嫌な様子のイルアに少し困惑する。何だろう暴れ足りないとか?しかし、今そこに突っ込んでる暇も無く、とりあえず見なかったことにしてイルアの頬を撫でる。
「いや、外に出ようか」
『あぁ、っ!』
「ん、む!?」
突如、イルアの空色の目が光ったかと思えば、なぜか口を塞がれる。
「警察だ!全員おとなしく、」
静まりかえった会場内に、数人の警察と名乗った人間とポケモン達が入ってくる。完全にアウトだ。と、思ったが。
「誰もいない?」
「入り口の方で客達がごった返していたしな…他の道があるかもしれない。探すぞ!」
「了解!」
数人を残して警察達はどこかへ走って行く。会場の入り口から、ステージの上が見えないはずがない。なら、なぜ警察達は僕らが見えないか。
「イルちゃんさすが」
『まだいる、油断はするな。イリュージョンも完璧じゃない』
イリュージョン、汎用性が高すぎる。
「ひゅー!組織に欲しい人材っ、惜しいですわ〜スカウトされません?」
『俺はシウンのポケモンだ』
「お断り」
「ざんねん〜!」
カキハラの戯れ言を一蹴し、レパルダスくんの元へ行く。どうすればいいのか分からない。と顔に書いてあるようで非常にわかりやすい。レパルダスってたしかあくタイプだよなぁ。
「逃げるよ」
『俺は早くも、着いていく人を間違えたと思ってる』
「キミがもう僕を選んだんだ。観念しときなよ」
『うっ』
『嫌なら来るな』
『い、行くよ!!』
他に頼りもいないし、着いてくるしかないんだろうけど。
「あ、人が倒れてます!」
「げ、」
忘れてた司会者の男!無事に警察に発見された司会者の男はまだ気絶しているようで、警察の人間も男の方に気を取られている。
逃げるなら今のうちと言わんばかりの状況。みんなもそう思ったようで、一斉に警察達がいる逆の舞台袖へと走る。
『あっ』
『なっ!?』
「え」
「あら〜」
ドシンっ!!
「えっ!?」
『ごめんなさい!!』
『このクソ猫っ!』
警察と目が合う。完全にアウトだ。
イリュージョンは攻撃を受けたらとける。
レパルダスくんがイルアを巻き込んでステージ上で盛大に転んだこの状況。
「な、どこから人が、っゾロアーク!まさか!ハーデリア、"かみくだく"!」
「チッ、イルっ」
「"でーんじは"!!そい!」
「なに!?」
「グゥッ、!」
イルアに指示を出す前に、カキハラが放った"でんじは"でハーデリアが麻痺状態になる。ヒトの姿から放たれるポケモンの技。警察官は初めて見たのか、目を白黒させ完全に動きが止まっている。
「イ、あークソ"あくのはどう"!」
『あぁ!』
「ムーランド、"まもる"」
「バフッ」
もう一人いたのかと悪態をつく。青い半透明な膜膜により、イルアの攻撃は防がれ、ステージ上に白い髭を生やした警察官が上がってくる。こちらを見る目は鋭く、思わず一歩後ずさる。この人面倒なタイプだ、直感的にそう思う。逃がさないという意思が睨み付けてくる目から伝わってきて気持ち悪い、吐き気がしそうだ。
「立て、逃がしはしないぞ」
「っはい!」
カキハラに驚いていた警察官も、髭の警察官の言葉により体制を立て直し、まっすぐこちらを見つめてくる。あぁクソどうしてこうなるかな。
どちらが先に動くか、じりじりと気力が削られ心臓がうるさく鳴る。
ステージの板がカツンと音を立てた。
「"ダークホール"」
静かな声が聞こえた。すると、警察の二人とポケモン達が次々に倒れていく。
「え…なんで」
真っ白な髪が揺れ、その間から青い瞳がこちらを覗いている。
毎日のように見ていたそれを、忘れるわけがない。
倒れた警察達の後ろから現れた人物を凝視する。すると、普段の彼女からは想像できないほど、綺麗に、笑った。
「お久しぶりです、シウンちゃん」
「メア…」
「きちんとご飯は食べていますか?」
「あ、うん」
この場に似合わない質問に、思わず素直に頷いてしまう。その答えを聞いたメアは、また嬉しそうに笑いこちらへ近づいてくる。
メアはこんな風に笑わない。というか笑った所なんて見たことが、いや。一度だけ。あったのかもしれない。夢で、見た気がする。あのオッサンが見せた、妙な夢。
「メア、キミ…」
「急ぎここを出ましょう。外は包囲されています」
「あ、……分かった」
笑顔から真剣な表情になったメアに手を掴まれ、まだ混乱した頭で頷いた。メアに引っ張られ、僕たちはオークション会場を脱出するため走り出した。
『えっえ?これどうしたら』
『来ないなら来るなクソ猫』
『行くよ!ごめんって!』
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