06



オークション会場をから脱出し、僕はポケモンセンターの一室にいた。
どうやって戻ってきたかは正直よく覚えていないが、メアの手にずっと引っ張られていたのだけは覚えている。
イルアとレパルダスくんをジョーイさんに預け、ふかふかのベッドに身を投げだすとやっと一息つけた気がした。

「…つかれた…」
「お疲れ様」

微笑みながらおいしいみずを差し出してくるメアに、ものすごい違和感を覚える。見慣れていた何も感じさせない無表情はどこへ行ってしまったのか…。

「……雰囲気違いすぎない?」
「ええ、シウンちゃんのそばにいますし、今はあの人がいないから。少しだけ」
「あの人ってオッサンのこと?」
「はい」

僕のそばにいることと、オッサンがいないこと、それがなんでメアの表情筋に関わることなんだと思いながら、受け取ったペットボトルの蓋を開ける。冷たい水が体を冷やし、少しだけ気分を落ち着かせてくれた。
僕が水を飲んだのを確認したメアは、ベッドの縁に座り、なぜか僕の頭をなで始める。

「…………」
「今ここにいることはアーデンにはナイショなんです」
「ふぅん…」

いつものちゃん付けがない事に気がついて、なんとも言えない気分になる。そんなとこまで気づくようになってる自分がいる。

「アーデンは…みかづきのはねを探していますが、本当は、羽1つでは足りないの」
「…」

頭をなでるメアの手を避け、暗くなった青い瞳を見る。ゆらゆらと水面のように揺れる青を見ていると、段々とまぶたが重くなっていくようで、目を擦り、メアがいる方とは反対側に寝返りをうった。

「クレセリア本人に、あの人の呪いを抑えてもらわないと意味が無いの」
「じゃあ、僕が羽探す必要ないじゃん」
「それは建前で、貴方が旅をして、一つの場所に長くいない事が重要なのよ」

口調まで変わってきて本当に別人のように感じる。
妙な居心地の悪さを感じてメアの顔を見れば、柔らかい視線が向けられる。

「……そっちが素なの?」
「ダメかな」
「いや慣れないだけ」

顔を見ているのもなんだかそわそわして気持ち悪くて、結局、またメアから視線をそらすように寝返りをうつ。

「ごめんなさいね。眠っている期間が長すぎて、自分でもどう話せばいいか、よくわかっていないんです」
「別に、話しやすいように話せば」

「ありがとう」そう言ってメアはまた僕の頭をなで始める。なんで撫でる必要があるのかとか、疑問に思うことは山ほど、と言うほどはないけど、どうしてだろう。メアに撫でられるのも嫌だとは思わない。むしろ、どこか懐かしいとさえ感じる。

「シウン、貴方にはまだ旅をして貰わないといけないのだけれど、どうしてこんなことをお願いするのか伝えたくて、」
「そういうの興味ないからいいよ」
「!」
「どうせ面倒ごとでしょ」
「……そう、そうね」

どうしてこうなった。とか、よく思うことはある。でも、理由になんか正直興味が無くて、最終的に自分の中の平穏が保たれていれば何でもいいんだ。って、思ったり思わなかったり。だから、別に聞かなくてもいいやって思った。聞いたところでふーんとしかならなさそうだし。
あとは、よくわからないけど、妙な自信がある。

「何かあっても、大丈夫。なんでも…出来る気がしてる」
「それは、彼と出会ったから?」
「…………さぁ?」

この世界に毒されてる。
ポケモンがいれば、何だって出来る。そんな言葉が頭をよぎる。一瞬鼻で嗤って、そうかもなんて、思ってみたり。

撫でられるうちに、さらに眠気が襲ってきてかみ殺せなかった大きなあくびがでた。

「遅くまでごめんなさい」
「んーん」
「最後に、眠ってしまう前に、これだけ」

悲しそうな顔をしたメアが、僕の顔をのぞき込む。頭を撫でていた手は頬へ伝い、指の腹が目尻を撫でる。

「キュレム。アーデンを狙っているポケモンよ。シウンも十分に気を付けて」

オッサンを狙ってるポケモンがどうして僕に関係あるんだ。と思っていたら、メアがその心を読んだように言葉を続ける。

「キュレムはアーデンを恨んでる。だから、彼の大事な物を壊そうとするの」
「僕がそうだって?寒気がするな」
「ええ。貴方はアーデンにとって大事な子。…私にとっても」
「…気味悪くて鳥肌たつからやめて」

ぞわぞわする腕を擦り、嫌な顔を隠さず浮かべた。こういうのにはどうも慣れない。皮膚の表面がざわざわして、喉の奥の方が気持ち悪くなる。
少し困ったように、まるでしょうがないなとでも言うように眉を下げたメアは、ベッドから立ち上がりベランダへと続く扉を開く。

「それと、あの夢を覚えていて」

眠気と戦いながら顔だけをそちらに向け、メアを見上げる。
あのとき、あの夢で、目が合ったのは確かにメアだった。
ふとそんな考えに至り、あの夢のことを思い出そうとする。

「探して、彼女を――クレセリアを。貴方のことをとても心配しているはず」

真っ白な髪が風で揺れ、その隙間からあの夢で見た笑顔が見えた。

「またねシウン。大好きよ…貴方は、私の―――…」

途中、プツンと途切れた意識は、メアの言葉を最後まで聞き取れなかった。


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