07



「レパルダスくんの名前を決めようと思う」

イルちゃんが作った卵焼きを頬張りながらそう言うと、レパルダスくんの顔が輝いた。ほんとわかりやすいなこいつ。
卵焼きを味噌汁で流し込み、一息つく。今日も味噌汁がうまい。イルちゃんの作る料理は、なぜか和食系が多い。そして量も多い。イッシュではジャンキーな料理が多いので、日本生まれの僕の胃袋的には助かるメニューだ。ジャンキーな料理に胃が困ったことはないが。

「クソ猫でいいんじゃないか」
『すっごい根に持つじゃん!ごめんなさいってずっと謝ってるのに!』

辛辣な名の提案に米が喉に詰まりかけた。じゃれ合う二人を見ながら、おいしいみずで気持ちを落ち着ける。死ぬかと思った…。
どうやら、イルちゃんはオークション会場での事をかなり根に持っているようで。出会ってまだ数週間だが、こういう反応は珍しい気がする。イルちゃんが元からそういう性格なのか、怒らせるレパルダスがポンコツなのか。
まあなんにせよ。

「いつの間にか仲良くなり大変喜ばしい」
「仲良くない」
『よくない!ていうか!ヒトの形になってるの何!?』

ぽかん。と一拍おいて、料理がしやすいという理由でヒトの形を取っているイルちゃんと目を合わせる。そして、テーブルに両手をついたレパルダスくんを見た。

「擬人化…」
「擬人化だ」
『なにそれぇ…』

レパルダスくんの顔がへにゃりとよくわからないと言った顔になる。

「あれ?擬人化ってポケモンの一般常識とかじゃないんだ」
『知らないよ…』

僕の周りでは擬人化している奴らが多かったから、その感覚に慣れていたのかもしれない。
確かに、僕も最初に見たのはイルアの擬人化だ。レパルダスくんのように知らないのも無理もない。ない?
というか、僕も擬人化については詳しくは知らないな。あまりにも他の奴らが自然に擬人化するもんだから、今まで疑問すら抱かなかったけど、擬人化って何だ?

「まぁ、ポケモンがヒトと同じような形になるやつだよ」
『ざっくり過ぎて意味分かんないんだけど……』
「僕もよくは知らないしな…イルちゃんは…」

「気づいたら出来た」

『全然参考になんない!俺もヒトやりたい!』

レパルダスくんが苛ついたように尻尾で床を叩いた瞬間。
何かが爆発し、白い煙がレパルダスくんを包み込んだ。

「え、レパルダスくん?」
「ゲホッ!なに!?なにこれ!?」

頭に響くような声が消えた。
白い煙が晴れ、レパルダスくんと同じ紫色の髪をした人型が見えてくる。

「……できた…?」

柔らかそうな長い前髪が揺れ、その奥から隠されていた赤い瞳が覗く。ぱっちりと開かれた青い目が、僕をみて何度か瞬きをする。
擬人化の仕様はよくは分からないが、容姿については自身の思うとおりに出来るのかもしれない。と髪で隠れた瞳を見て思う。
レパルダスくんは目にコンプレックスを抱いてるみたいだったし、まぁ容姿なんてどうでもいいや。
とりあえず今優先することは、

「お前の名前はルルだ」
「どういう流れ!?」
「いや、レレもパパもダダもススもしっくりこないから」
「えぇ!?そういう名付け方!?もっとカッコイイ名前がいい!」

わがままだ。とは口に出さず、米を口に入れ咀嚼する。名付けのセンスとか無いんだけど。

「ん〜〜…イルちゃんの名前って何?イル?」
「イルア」
「むっ……かっこいい。何でイルア?」
「ゾロアが呼びやすかったから、イリュージョンとゾロアでイルア」
「………ゾゾじゃなくてよかったね」
「俺はシウンの考えたやつなら何でもいいが…」

口の中でどんどんあまくなっていく米を飲み込んで、あっ、と声を出した。

「ルアール」
「るあーる」

箸で指さし行儀が悪いが、思いついた名前を言ってみた。
イルアール、なんて。言わないけど。

るあーる。と何度か繰り返していたレパルダスくんの顔に、段々と嬉しそうな表情が浮かんでくる。本当によく表情が変わる猫だ。

「かっこいい!採用!」
「よし、じゃあルル」
「そこに戻るの!?」
「呼びやすさ重視」

やっと名付けが完了し、朝食を再開する。あれ?芋煮みたいなのが増えてる。

「イルちゃん!これからは俺のことはルアールって呼んでね!」
「分かったクソ猫」
「何にも分かってない!」

そういえば、買い出しとかイルちゃんに任せてたけど、このご飯のお金ってどうなってんだろ。


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