米10kgと同じ位のゾロアを両手で抱えて森の中を歩く。
腕の中ですやすや眠っている黒い狐の様なポケモンはゾロアというらしい。携帯で調べたらすぐに出てきた。
ゾロアを発見した場所から少し歩き、丁度よさげな大きな石を見つけるとそこにゾロアをそっと寝かせる。これ以上歩くと僕の腕がイかれそうだ。
「なんかあったかな…」
財布と水筒くらいしか入れない鞄を漁ってみても、傷薬やらきのみやらが出てくるわけがなく。仕方ないので、ポケットに入っていたハンカチを、水筒に入っている水で濡らし、汚れを一通り取ってから一番ひどそうな傷に巻き付けておいた。これで止血が出来るかは知らないけど、何もないよりはましだろう。
今度から最低限、きずぐすりでも持ち歩こうかな。
「現在地ここだから…西の方に歩けば15番道路に出れるか…」
携帯を開いて位置情報を確認すると、何の問題もなく携帯は現在地を表示し、今どのあたりにいるのかを教えてくれた。
科学の力に感謝しながらゾロアくんを見ると、うっすら目が開いていて、空色の瞳と目が合った。
「おきた?」
『…ぉ…ぁ』
掠れた声で発せられた言葉は全く聞き取れなかったが、ゆっくりと首を動かし辺りを見回しているゾロアはここが何処だか分かっていないのだろう。ここまで奥に入ってきたのは初めてだから、僕にも森としか答えられないことは黙っておこう。
ハンターは見つけられなかったが、傷ついたポケモンは見つけられた。ゾロアをポケセンに連れて行って、警察にでも通報すればこの森もしばらくは安全になるだろう。
『お、まえ…うっ…』
「あんま動かない方がいいよ。治療とか全然してないから」
『助けて…くれた…のか?』
「そういうことになるのかな。まあ、まだ途中だけど。あ、水だけでも飲んどく?」
鞄から取り出した水筒を揺らしながら見せると、ゾロアは控えめに頷いた。残念ながらコップはないので手で器を作り水を注いでやる。汚れ落とすのに結構使ったからあと半分も残ってないや。
濡れた手をズボンで拭きながら、これからどうしようかと考える。
さっきの様に抱えて15番道路まで出ればいいのだが、正直に言って…だるい。しかも小さいくせにゾロアは重い。僕が面倒だからなるべく避けたい。
オレンの実でもあればゾロアの体力も少し回復して自分で歩いてもらえるが、それっぽいきのみは見当たらない。森なんだからもっと生えてろ。今度来たらミネズミにでも植えるように頼んでおこう。
「では問題です」
『は、?』
「僕が一番楽にこの森から出る方法は一体なんでしょう?」
『俺を置いて行く』
「わぁ、素晴らしい自己犠牲の塊。却下」
『?何でだ?ここまでして貰ったんだ。俺は別に一人でも…いっ!』
パチンっと指を弾く。鼻先に痛みを感じただろうゾロアくんは、短い足で鼻先を押さえながらジトリと睨んでくる。若干涙目になっているから全然怖くない。寧ろかわいいくらいだ。
「キミにはハンカチを返してもらわないといけないからね。ちゃんと傷を治して綺麗に洗って返してもらわないと」
『はん、かち…?…あ、』
今気づいたのだろう。体に巻いてあるハンカチを見てゾロアくんは固まった。黒いハンカチにうっすら見える血の跡。そっと触ると乾いてきているから血は止まったはず。
もちろんハンカチなんて建前だが、ゾロアをポケセンに連れて行って通報する、という行為に意味があるんだ。ただ僕が一人で行っても警察はすぐには動いてくれないだろうし。まあそんな事情をゾロアに言う必要はないから黙っているけど。
「置いて行く案は僕に却下されたため、次の案」
『……』
いまいち納得できないといった様な視線が刺さるが、無視して鞄を漁る。少ない僕の持ち物の中で、今まで一番使う理由が無かった物。もし理由があっても使う気が無かった物。
「ゾロアくんの案が3つ目、んで4つ目の案ね」
赤と白、めでたい色をしたそれをゾロアくんに見せつけるように差し出し、
「キミが、このボールの中に入る」
そう言って、にっこり笑ってみせた。
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