04



「それは、却下だな」

横から入った低い声に振り向くと、そこには肩に狩猟銃を背負った長身の男が立っていた。隙のない立ち振る舞いに、鋭い殺気、おそらくこいつがハンターだろう。

「そこのゾロアに用がある」

そう言って男は腰もとに手をやり何かを取り出す。丸い何かが弾け、青白い光と共に紫色をした猫の様な生き物が男の足元に現れた。しょうわるポケモンのチョロネコ、見た目に反して可愛いポケモンを使うんだなぁ、なんて。余裕ありげに鋭いツメを舐めるチョロネコを見ると、頭に妙な形の機械をつけていた。ハンターの男も似たような機械をつけているのが気になり、小声でゾロアに訪ねる。

「あの頭の趣味悪いやつは?」
『…多分、あれのせいで俺のイリュージョンが効かないようになっている』
「なるほどね」

携帯で調べた時に、ゾロアという種族は人や他のポケモンに化けて自分の身を守る。と書いてたのにおかしいと思ったら、そういうことらしい。厄介なやつに目をつけられたもんだ。
座っていた石から立ち上がりチラリとゾロアを見ると、しっかりと地面に足をつき戦闘態勢に入っていた。戦闘が出来るかはともかく、立ち上がれるくらいには体力が戻ったか。
2つ目の案でも行けそうだったな。なんて考えながら男に視線を移す。さて、どうしたもんか。

「大人しくそのゾロアを渡せば手荒なことはしない」
「ハッ、何その提案、脅しかな?」
「そうとも言うな」

あっさり肯定され思わず笑ってしまう。
ここで、あっさり渡してしまっても良かった。僕だって命は惜しい。特に面白みの無い人生だけど、こんなところで訳の分からないやつに殺されてやるのは、癪に障る。

「却下、だね」
「そうか」

本当に、この世界に来てから、僕はらしくない。

カチャンッ、男が銃を構え僕を見る。男の指が引金に添えられ、

「じゃあ死ね」

男の声が響く様に聞こえた。


『あぶねぇ!』

柔らかい何かに体を押された瞬間、――大きく乾いた音が森に響いた。

「いっ!ぐ、…ッ」

地面に倒れた直後、足に激痛が走った。
撃たれた、そう頭が理解すると、全身に痛みが広がっていくような感覚がした。
痛みを耐えるため思い切り歯を食いしばり、足を押さえる。全身に響く心臓の音がうるさくて、耳を塞いでしまいたい。痛みで飛んでしまいそうな意識を、必死につなぎ止める。

『おいッ大丈夫か!?』
「ハ、っ…はあっ…」

ゾロアの問いに答える気力もなく、肺から息を吐く、地面に転がる僕の姿を見て、ハンターは舌打ちをこぼす。おそらく心臓を撃ち抜くつもりで撃ってきたのだろう。ムカつくことにゾロアに助けられたらしい。なにも反応できなかった自分に腹が立つ。
しくったと思ってももう遅い、足をやられた。走って逃げることも出来ない。というか立つことも難しい。どうすればいい?分からない。
無謀すぎた。それだけ。らしくないことはするもんじゃない。
心臓の音がうるさい。考えがまとまらない。足から流れた血が地面に広がって、指先がどんどん冷えていく。
痛い、帰りたい、どこにだよ。帰る場所なんて、ここにはない。
どうして今こんなことを考えているのかも、わけがわからない。こんなのらしくない。いや、自分らしいというのもずいぶん前に忘れてしまった気がする。

ころり、視界の端でボールが転がる。
なんであんな提案をしたんだろう。
ここに来てから今まで、ポケモンなんて何体も見てきた。ゾロアと同じような傷ついたポケモンなんて、今までも何体か気まぐれに助けたりもしてきた。
役に立つ時がくる。そう言われて渡されたボール。使わないままずっとカバンの奥にしまい込んでいたボール。
なんでそれをこの子に差し出したのか。
なんで今、こんなことを考えているのか。わけがわからない。

「ハッ、まるでこれから死ぬみたいだ」

ポツンと落ちた嘲笑の声。

『なっ!……っ』

『に言ってんだ!!』
「っ!」

ガキィインッ!と金属でもぶつかったのかと思うほどの音が響く。

『ぐっ…』

呻き声を上げながらも、ゾロアは飛びかかってきたらしいチョロネコの攻撃を弾いて防ぐ。
ふらつく足で僕の前に戻ってきたゾロアの目は、死んではいなかった。

『俺は!お前にハンカチを返さなきゃダメなんだろ!!』


あ。

重い何かで頭を殴られたような気分だ。

「ゾロアくん」
『なんだ』

パタリと草の上に落ちる赤い液体。傷口が開いてハンカチなんて意味をなしてない。
わけがわからないや。なんでこんな時に、こんな事考えてるんだろ。

男が指示を出し、チョロネコが再びこちらへ向かってくる。
動く足で地面を蹴り、ゾロアくんに覆いかぶさる。直後背中を襲う鋭い痛み。

「づっ…ぐっ…!」
『は、っおい!』

足も痛い、背中も痛い。でもそれ以上に、胸の奥の方が気持ち悪い。

「らしくないよ。……ほんっと、吐き気がする」
『お、おい…おまえ』
「ねえゾロアくん」

傷だらけのゾロアくんの頬をゆるりと撫でる。
空を落としたような青い目が不安そうに揺れている。
ああ、本当にらしくない。

「僕はキミが良い」
『えっ』







「ガッ!…ごほッ!」
『な、』

「くだらない茶番はそこまでにしてもらおう」

男の声が頭上から聞こえた瞬間、やっと状況を理解する。
腹を抑えて蹲ったまま動かないあいつ、その頭に銃を突き付けるハンターの男。

『はーあ、もっと手応えのある相手なら良かったのに』

チョロネコが伸ばした爪をペロリと舐めた。

『そいつから離れろ!』
『おっと、まだ動くのか』

ハンターの男に向かって地面を蹴る。傷口から血が出て体中が悲鳴をあげるが、そんなものを気にしている場合じゃない。
すかさず立ち塞がったチョロネコが鋭い爪を振り上げる。

『どけ!!』
『なっ、に゙ゃっ!』

尻尾でチョロネコの攻撃の起動をずらし、チョロネコが怯んだその隙に、男へと飛びかかる
死なせない。
俺はまだ、礼も、お前の名前を聞くことも、ハンカチを返すことも出来てない!

『殺させてたまるかぁあ!』


-5-

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