03



妙な夢から目覚めると、なぜか目覚めた場所はポケモンセンターではなく、ラクと名乗った闇医者の研究所だった。
自分はどうしてこんなところにいるのか、イルアはどこに行ったのかなど、聞きたいことだらけだったが、顔面包帯だらけの怪しい男―ラクは、開口一番。

「ポケモンと話せるそうですね」

と、嬉々とした表情を浮かべそう言った。
どうしてそんなことを知っているのかと聞く暇も与えられず、僕は実験台に縛り付けられ、まるでモルモットのように身体中を調べ上げられた。検査の片手間に傷の治療などもされていたが、あまりの出来事にイルアの顔を見るまでの記憶が曖昧だ。人間、予想を超える出来事があると放心しすぎて記憶がなくなるらしい。


そして、あっという間にここに来て2週間、今日も検査という名目で、何に使うのか分からないが血を抜かれ、目玉を要求された。目玉はさすがにあり得ないと逃げてきたのだが…。

「そうしてそうして、ワタシはマスターに付きまとっているのですよよ!」
「はーーん、その話もう4、5回くらい聞いたんだけど」

変態闇医者から逃げてきたというのに、今度は面倒な宇宙人に捕まって、何度目かの同じ話を聞かされる。
ここで目覚めて最初に見た騒がしいピンクの宇宙人のような少女は、スマイルアットという変わった名前で、種族はメテノというらしい。イッシュにはいない種族だそうで、アローラ地方というところでラクに捕まり、結果命を救われたんだそう。何回聞いても意味が分からん。

「ワタシはそろそろマスターさんさまからの頼まれごとを済ませるので!シウンちゃんさんにお付き合いできるのはここまでなのでしたぁ〜!ではさらばサラダ!」

一方的に喋り、満足したのかバタバタと去って行くスマイル。
やっと解放されたと柔らかいソファに横になって、ポケットから携帯を取り出す。今日も今日とてつまらないニュースで画面は埋め尽くされている。
イルちゃんはどこ行ったんだあのクソ狐、また特訓とか言ってハチとバトルでもしてるんだろうか…。
BB-8ビービーエイト、ハチとも呼ばれるオネエ。カラマネロという種族で、こちらもイッシュにはいない種族。
過去の出来事で、両目が見えないらしい。なのに、毎日イルちゃんをボコボコにして帰ってくるのでめちゃくちゃ強い。人の指示を聞く練習だといって何度かバトルしたが、勝てたことはない。ハチ曰く「若い子にはまだまだ負けないわよ!」とのことなので、見た目では分からないが結構年を食ってるのかもしれない。

「はぁー…」
「お疲れ様ですシウンさん」

携帯から顔をそらし、声のする方を向くと、羽のようなイヤーマフを付けた少年――エラが段ボールを抱えながら笑顔を浮かべていた。
エラ…本名はエクスクラメーションマーク、長いからエクスクラやエラと呼ばれている少年は、タブンネというポケモン。ポケセンとかでもよく見るやつ、しかも色違いで腕もいい。ほとんどエラのおかげで僕とイルアの傷は完治した。絶対残ると思っていた傷跡も、本当に傷があったのかも分からないくらい綺麗に治った。エラの能力や技術はポケセンにいるポケモンたちより優れているとラクが言っていた。まぁ、傷が残ろうと僕はどうでも良いのだけど、エラは「傷が残ってしまうと悲しいので」と泣きそうな顔をしていた。その顔が妙に印象に残っている。

「? 僕の顔何かついてますか?」
「いぁ…………何かの食べカスがついてる」
「えぇ!?……あっ、ほんとだ!」

いつの間にかエラの顔を見すぎていてらしい。エラの問いを否定しようとしたが、改めてエラの顔を見ると、口元になにかの食べカスがついていた。その食べカスを指摘してやると、エラは慌てた様子で段ボールを置き口元を確認しに鏡の前へ走っていく。
ソファから起き上がり、床に置かれた段ボールに目をやっていると、口元を綺麗に拭いたエラが何かに気づいたように声を上げた。

「それ、シウンさんへのお届け物だそうです」
「僕に?」

「あら、ここにいたのね」

一体誰が、と頭をひねると、後ろの扉が開く音がして聞き慣れてきた声がかかる。
振り向くと妙に機嫌の良いハチと、げっそりした様子のイルアが入ってきた。特訓終わりはいつもあんな感じだ。どんだけハードな特訓をしてるんだか。

「お疲れ様ですハチさんにイルアさん!」
「エラちゃん、ハチはやめてって言ってるでしょ!アタシにはBB-8っていうラクのくれた名前があるんだから、ちゃんとビット姐さんとお呼びなさい!」
「ハッ!すみません!ビットさん!」

ハチはハチと呼ばれるのが嫌いなようで、毎回訂正を入れてくる。BB-8なのに結局呼び方が変わってるのは言ってはいけない。エラも結局は姐さんとは呼ばないんだ…。

「もう、何度言ったら分かるのかしら……。あぁ、シウンちゃん」
「ん?」

ため息を吐いたハチは何かを思い出したように僕の名前を呼ぶ。ビリビリとガムテープを破る手を止めハチの顔を見ると、ハチはいつの間にか隣に座っていて少し驚いた。

「ラクがもう出て行って良いって言ってたわよ。傷も完治したしね」
「ああ、さっきの検査で聞いたよ」

今日の検査の終わりに包帯男は、「貴方達のことは調べ尽くしたので、勝手に出て行ってください」と言い放った。そして、調べることがあるといって研究所から出て行った。ポケモン達も連れて行かずに。なんともあっさりした別れだ。あの包帯男から別れを惜しまれても困るのでこのくらいがちょうど良いが、あっさりしすぎて逆に拍子抜けしてしまう。

「えぇ!?シウンさん達もう行ってしまうんですか!?」
「まぁ、もう居座る理由もないし…」
「せ、せっかく仲良くなれたのに……すっごくとてもさみじいでず〜〜!」

鼻声でそう言ったエラは、僕に抱きついてきてわんわんと泣き始めた。

「い、いるあざんの記憶もぞのままでずじ、もうちょっといてもいいんですよぉぉう!」
「いや、俺の記憶は別に」
「そういえば……」

この二週間で色々なことを知った。その一つがイルアの記憶。治療と共に行われた検査によって判明したらしいが、記憶の一部、というか僕と出会う前の記憶が全くないのだという。結構深刻な問題だと思うのに、当の本人は特に気にした様子もなく過ごしている。あまりにも本人が気にしていないので忘れかけていた。
普通にゲットできたから誰かのポケモンだったと言うことはないのだろうが…。

「シウンと一緒にいれば何か思い出すかもしれないしな。大丈夫だろ」
「うぇぇ……??」
「なんなのかしらこの自信は」
「バカなんじゃない?」

どこから湧いているのか謎の自信を披露させられ、この話題は収束する。

「そーう!そういえばば!この箱はなんなんなんでしょね!?」
「わぁ!!ススマイルさん!?いつからそこに!?」
「このワタクシ、スマイルアットットちゃんはいつでもどこでも何度でも急にババンと登場するのが趣味なのですです!!それではご開帳!」
「あっコラ!」

会話が途切れた所に、派手なピンクが大声を上げ段ボールを掲げて登場した。意味の分からない台詞を吐き、中途半端に開いた段ボールの中身を盛大に床にぶちまける。散らかすなとハチの怒鳴り声とスマイルのうるさい笑い声が響き、カオスだ。
とりあえず、床に散らばった物を拾い上げようとソファから立ち上がると、目の前にひらりと手紙が落ちてくる。咄嗟にそれを捕まえると、シウンへと丸っこい字がでかでかと書かれているのが目に入った。

「この字……」
「どうした?」

書き置きなどでよく見た丸みを帯びた独特な文字。見覚えのありすぎる字に思わず顔をしかめると、イルアが手紙をのぞき込んでくる。

「この荷物オッサンからか」
「オッサンというと、シウンのおやか」
「そういやこの二週間なにも連絡無かったっけ……あ、うわ、すっごい嫌な予感する」

ラクの研究所にいる間、今思い返せばあの妙な夢を見てからオッサンという存在をすっかり忘れていた。メールも電話も一切無かったことに、今更ながら嫌な予感が湧いてくる。この手紙を見てはいけないという予感までしてきて、ゴミ箱を探す。しかし、ゴミ箱を見つけたというのに、肝心の手紙が手の中から消えていた。

「あれ、?」
「ん〜〜!なになになに?読みにくい字ですですね??」

振り向いたときにはもう遅くて、開封された手紙を広げ、スマイルが手紙の内容を読み上げていく。

《やあシウン。元気だったかな?
 夢でも伝えたとおり、シウンには旅をしながらみかづきのはねを探してほしいんだ。
 どうしても必要なものなんだけど、生憎、急用が出来てしまって俺は行かなければいけない。
 頼んだよ。》

「はぁ?」

《PS.シウンが反抗できないようにブラックシティへのパスポートは解除したよ!ごめんね!キミの旅の無事を祈っているよ! アーデン。》
「――とも書かれてますですよ!」

「はぁ!?」

色々と理解が追いつかないが、一つ確実なのは、あのオッサンはクソ野郎だと言うこと。
頭痛がしてきそうな頭を押さえ、スマイルから手紙を奪還し、内容を読み直す。
夢、というのはあの奇妙な夢のことで間違いないだろう。胡散臭いオッサンだとは常に思っていたが、まさか人間じゃ無い可能性があったのか。いや、もしくはオッサンが持っているポケモンの力か…ポケモンを所持してるような形跡は無かったけど。隠そうと思えばいくらでも隠せるし、
……今考えても仕方ないことか。
ため息を吐いて、再度手紙に目を通す。
夢では言ってなかった、旅とか言うワードが追加されているのは僕の勘違いでは無い。しれっとこういうことをしてくるのが本当にウザい。

「あのクソ野郎……なんなんだ…」
「あらあら…」

手紙を握りしめ悪態をつく。すると、ハチが後ろから手紙をのぞき込んできた。

「みかづきのはね…また珍しいものを欲しがってるわね…シウンちゃんのお父さん」
「お、と…父親じゃないから、ただの里親っていう他人だよ」

頬に手を当て楽しそうに笑うハチに顔が引きつる。誰があんなお気楽なオッサンを父親だなんて思うんだ。というか父親って存在ならいるし、ここにはいないけど。

「街へのパスが消されたってのは………本当だし…」

携帯でブラックシティへの入場パスを探すが、IDごと消去されているようで見つからない。

「まじであのオッサン何考えて、―あ〜…みかづきの、はね?とかいうのが欲しいんだっけ…。つかなにそれ」

珍しいもの。そう言ったハチに目をやると、指を顎に当て「たしか…」と記憶の中を探りながら話し始める。

「悪夢を振り払う力を持つと言われている羽よ。クレセリアというポケモンが落とす羽じゃなかったかしら」
「悪夢…くれせいな?」
「クレセリアよ」

クレセリア。携帯で早速調べると、三日月のようなポケモンの画像が大量に出てくる。全く惹かれない謳い文句と共に掲載された写真を見ると、なぜか胸の奥がざわざわ騒ぎ気持ち悪い。というか羽ってどこの部分なんだろう…オッサンが謎パワーで出してた羽らしきものは分からない。

「みかづきのはねってのは簡単に見つかるものなのか?」
「いえ…クレセリア事態、イッシュ地方では何十年も目撃されていないはずです…」

イルアの疑問にエラがそう答える。
何十年も目撃すらされてないって、どうやって見つければいいんだよ。
希望の見えない道のりに思いため息が出る。いや、わざわざ探してやる義理もないんだけど!

「はいはいはーい!持っている人からゲットしちゃえばいいんじゃないですです〜?」

今まで妙に静かだったスマイルが、突然勢いよく両手を挙げながらそう叫んだ。

「ゲットって…そう簡単にくれる人とかいな、」
「それよ!」
「え、なに…」

僕の声にかぶせるようにハチが声を上げる。
何かをひらめいたらしいハチは「そうよ、それがあったわ」といいながらスマイルの頭をなで回す。状況について行けない僕とイルアとエラはそろって首を傾げたが、ハチはにっこりと笑顔を浮かべ。

「その前に、一つやることがあるわ」

と、ウインクを飛ばした。


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