エースが目を覚まして、白ひげに挑み続けてしばらく経った。彼はなんだかんだでコミュニケーション能力が高い。馴染むのも早いだろう。
ボタンも仕事を与えられて、船の雑用をしつつ、エースの怪我を様子を診ていた。そんなある日、100戦目がとある島で行われた。
エースは強くなった。そんなエースの脆い部分まで白ひげは受け切って見せた。本当に良い出会いだったと親子盃の儀を見てボタンは安心していた。
「おい、ボタン……お前本当に船を降りるのか?」
「ええ。ここには女の戦闘員は置かないのだそうよ。私、エースと航海できないのなら、傘下に居ても却って寂しいだけだって思ったの。それに、私のやりたい事には、この船に居ては辿り着けないかなって思ってね。」
「ああ、故郷を取り戻すって言ってたな。」
「私はまだまだ強くなる必要があるって今回で良く分かったわ。私の伯父は白ひげと良い勝負をしたと聞いている……まあ伯父と師匠曰く、だから本当なのかは私には分からないのだけど。」
エースと二人きりと言うわけではない。誰に聞かれても問題ないと百合が思っている初めて言う伯父や師匠の話に、元スペードも白ひげのクルーも数人耳を欹てていた。
「え!ボタンの伯父さんって海賊かなんかやってたのか?!」
デュースの疑問は尤もだった。今までスペード時代にだってそんな話を聞いたことがない。
「エース、気を悪くしないで欲しいの。私はアンタだからここまで着いてきた。」
「急になんだよ。」
真剣な顔のボタンに怪訝な顔のエース。察してしまったデュースは百面相をしてた。
「伯父は国に帰る前は海賊王の船に乗ってたんだってさ……でも、本当はこの船のクルーなんだって聞いてる。」
急な暴露に、元スペードはもとより、白ひげの古参船員までがシン……と声を無くしていた。
「もう、亡くなってしまったけど、生前はまた会いたいって時々言ってたな。」
そこまで言って、さもいつも通りのように荷物を風呂敷に包むボタンに、ここまでの話を黙って聞いていたマルコが、その伯父の名を聞いた。
「え?光月おでんだよ。私もあんな風に強くなりたいものだわ。」
それだけ言うとボタンはさっさと作業に戻った。
「お、オヤジー!!」
後ろで叫ぶ声に数人の隊長が集まって来た事は、わざわざ挨拶に出向かず済むから、ちょっと都合が良いと思っていた。
しかしボタンは驚いた。そこには一度引っ込んだはずの白ひげもいたのだから。
「あら、何事?」
きょとんとしたボタンに、白ひげはただ聞いた。
「あの技を、どこで得た?」
「ワノ国。伯父に教わっただけよ。技は、ね。」
少し気怠げに見上げるボタンの外見のどこにもおでんに似たところはない。それなのに、あの技を受けた白ひげは確かにボタンの中におでんを見た。
「その伯父が師匠か?」
「いいえ。師匠と言うより育ての父と言うべき人なのだけれど……まあ、師匠はシルバーズ・レイリーよ。私の戦い方の基礎と一部の技は伯父、それ以外はレイリーに教わったわ。」
さらりと言って、何でも無い事のように「そう言えば、ちょっとお願いが……」とボタンは自分の希望を言おうとした。が、それを遮ったのはエースだった。
「ボタン、お前……お前……」
「エース、レイリーは私の恩人なの。だから、アンタに言えるわけがないわ。」
ボタンはレイリーやおでんからロジャーの為人を聞いて育った。しかし信じている船長の言葉の端々から感じるのはロジャーへの嫌悪。
「でもね、私はエースだから一緒に居たいって思ったのよ。そもそも最初に会った時、アンタがそうだなんて幾ら私でも知るはずないじゃあないの。」
困った顔でボタンは深い溜め息を吐いた。
「旅が楽しいのは初めてだった。ありがとう、エース。」
複雑そうな顔のエースにボタンは時間が必要だろうなと判断し、白ひげに向き直った。
「エース達をどうぞよしなにお願いします。」
「ああ。達者で暮らせ。」
礼儀正しく頭を下げるボタンに白ひげは鷹揚に頷いた。
「エース!デュース!スカル!ミハール!ガンリュウ!ウォレス!コタツ!元気でなー!!」
そう叫んで、ボタンはこの新世界の海を小船を“引きながら”海上を走って行った。
「は?!!」
本スペード以外の面々の驚く声があちこちで上がるが、ボタンは気にした様子もなく水平線の彼方へと消えて行った。
このまま故郷へは行けないと分かっている。ボタンは、強くなる為に一人旅を再開する。