元煙崎の転生/01-2

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 エースも同じ考えだったらしく、否定されると納得いかないと首を傾げていた。
「じゃあ故郷の敵対組織に命を狙われているの?」
「それもちげェよ!」
 計らず、エースと同じく首を傾げた。故郷の敵対組織に狙われているのは私のことではある。
「あ、私は故郷に妹がいるわよ。海のどこかには弟もいるわ。ずっと会えていないけれど、大事な家族よ。泣き虫で、甘えん坊で、大好きな家族なの」
「へー、そうなのか。家族といやあ、おれには弟がいてな。まァ、血は繋がっちゃいねェんだが……」
 そこまで言って、エースは沖に視線を向けた。ああ、ルフィの事だ。しかし知らなかった、2人は義兄弟だったのか。ルフィの話をするエースの顔は緩んでいて幸せそうに見える。やっぱり素敵だ。
「サルみたいにうるせェやつでな。いっしょにいたときはあまり意識しなかったんだが、こうしていざ離れてひとりになってみると、案外さみしいもんだな……」
「そうね、私も離れたばかりの頃は似たようなことを感じたわ。一緒にいるあいだは、それが当たり前すぎたんでしょうね……ふふ」
「そうだな。あたりまえだと思ってた……へへへ」
 私たちは家族を思い出して、ほっこり幸せな気持ちになって笑い合っていた。もうひとりの男は、ぎゅうっと拳を握りしめて陰鬱な空気になっている。家族関係が意外にも悪いのか。
「いいよなお前らは……。帰れる場所があって……。なんでこんなとこに来てんだよ。弟だとか妹だとかのとこに帰ればいいじゃねェかよ……!」
「お、おい。急にどうした……?」
「おれはお前らとは違うんだよ!帰りてェ場所があるなら幸せじゃねェか!」
 勢いよくデュースは立ち上がるが、ふらついている。
「帰る場所があって、血が繋がってなくても心で繋がってるいい弟がいて!血の繋がりのある家族がいて!さぞかし幸せだなァ。ええ、おい?大好きな父ちゃんと母ちゃんもきっと今頃心配して待っていてくれるってわけだ。恵まれてんだよてめェらは!」
 立ち去ろうとする背中に、腹が立った。
「母は死んだわ」
「おれも同じだ。母親は、もういねェ……」
 私は少し苛立っているが、エースは沈鬱な声だった。
「父親は?父親はどうなんだよ?ああ?」
 振り返ってデュースが詰め寄ってくる。
「いないわ……父も死んだ」
「父親も、いねェ……」
 デュースは引っ込みがつかなくなったのか、さらに捲し立てていく。
「おれの父親は、おれと会うたびに『私に恥をかかせるな』としか言わねェ。それとくらべりゃあ、あんたらンところのは幾分マシだったはずだ。だったら、いないならいないで、もうそれでいいじゃねェか。幸せな思い出だけ残っているってんのな――」
「はっ!……孤児として生きるのが羨ましい?ずいぶんと、お気楽さんね」
 途中で遮って思わず言ってしまった。エースは逡巡するような素ぶりのあと、口を開く。
「幸せな思い出なんかねェよ……。おれは母親の顔すら知らねェ。そしておれの父親は、ろくでもない人間だった。早い話が、犯罪者だ……」
「犯罪者っつったって、もう死んでんだろ。お前に罪があるわけでもなんでもねェのに、なんなんだよその辛気くさい顔は。そんなもん、たいした悩みじゃねェんだよ!」
 エースは何も言わない。言えないのかもしれないが。暗い表情のままのエースが心配になった。
「兄だって、父親だってどうせたいした悪党でもねェんだろうが!自意識過剰なんだよ!そこらのちゃちな犯罪者のことなんざ誰も気にしちゃいねェ!それどころかお前らのことなんぞ、みんないちいち考えてもいねェだろうよ!そりゃあ、犯罪者は犯罪者でもたとえば親が海賊王だとか、関係者だっていうんなら悩むのもわかるぜ?そいつは最悪だよな。死にたくなるぜ。けどお前はそうじゃねェだろう?なあ?勝手に悲劇の主人公を気取っているんじゃ……」
 待て、ここでピンポイントに海賊王を出されると困る。父は海賊王のクルーだった。しかも私は物心つくのが早かったからロジャーの顔もしっかりと覚えている。
「いや……おい、待て、やめろよ……。てめェらなんだよその反応……?」
 ”てめェら”に疑問を感じてエースの方を見ると、困ったような顔があった。私も似たような表情をしていることだろう。と言うことは、エースの父親は海賊王なのか。苦労しただろうな。
「嘘……だろ?」
 エースが目を閉じて首を横に振る。嘘なんかじゃないってこと。
「ろ、ロジャーなのか?あの海賊王の……?」
 エースが静かに首肯いた。
「じゃ、じゃあ、てめェは!?」
 私の番だった。
「父が、クルーだった。ラフテルまで共に行ったと聞いている……2歳の頃に私も母も弟達もあの船に乗ってた。だから何?私は国を追われているけれど、ロジャーのせいじゃあないわ」
 父が海賊として海に出ている間に色々あったが、終わったことは仕方がない。誰も言葉を発さない。デュースは私たちの顔をじろじろ見てくる。
「はァ……ロジャーの実の子が何?私はそんなの知らないうちに、エースのことが気に入ったわ。すごく面白いヤツで楽しくて気が合って、できるなら一緒に旅がしたいって初めて思った人間がエースだわ。私にとってはそれが全てよ。自分で見て感じたものを信じられないなんて、生きている価値がないわ!」
 そこまで言っても、まだぐだぐだ考えているデュースは私やエースより波瀾少なめに一般人寄りに生きてきた人間なのだろう。
「くそっ……」
 ようやく喋ったと思ったらただの悪態。そのまま背を向けて去ろうとする。好きにしろ、と思った。エースの魅力が分からないなんて勿体無いやつ。
「あっ、な、なあ、いっしょに船……」
「もう話しかけてくんな……。おれァ、ハナから手伝うつもりはねェんだ……仲間なんていらねェんだよ」
 本題を忘れないエースが健気すぎて去っていくデュースなんてどうでもよくなった。
「行きましょう、エース。私、船の知識はあんまりないけれど……頑張るからね。最悪の時はエースを背負って泳ぐわ」
「え、あ……おれを?まァ、ボタンはでけェけど、それはちょっとな……男のコケンにかかわる」
 まだ少し気落ちしているエースの肩を叩いた私はデュースを完全に無視することを決めた。