元煙崎の転生/01-3

 水だけはなんとかなるって、素晴らしいことだと改めて思った。海に出てから、ずっと思っていたことでもある。おかげで脱水状態にはなっていない。食料に関しては、ほとんど何もない島だったので、ときどき空を飛ぶ鳥を斬撃を飛ばして撃ち落とすことで確保していた。交代で火を起こして焼いて9割をエースに食べさせる。火を起こすのは2人とも難なくできるのは良い事だ。しかし鳥も、撃ち落とせる位置にはそうそう来ないので余裕はない。
「さみィな……」
「今日もくっついて寝ましょう。体力も温存しないとならないわ」
 夜は冷える。だから身を寄せ合って寝て、その間は常に無意識で行っている波紋の呼吸による太陽のエネルギーを、エースにじんわりと暖かさを感じるというレベルで渡している。空腹も楽になっているはずだ。
「……おう。不思議なんだけどよォ……ボタンとくっついて寝たときって、なーんか調子がいい気がするんだよなァ……あったけェし」
 眠そうな目でエースが見ている。
「私って体温が高いのよねェ……ここから無事に脱出できたら、私の秘密の術を教えてあげるわ……だから明日も頑張りましょう」
 波紋の呼吸を教えられるとしても習得できるかは分からない。今まで誰にも教えたことはないが、エースになら良い気がした。
「おー、おもしろそうだな……」
 なにかを、むにゃむにゃ言いながらエースが眠りに落ちる。私は寝ても何かあれば起きられる。だから隣の寝息につられて抵抗せず眠りに誘われた。

「……そういや、ボタンは水の確保が上手だよな。いつも瓶にいっぱい汲んでる。どこかに沢でもあったか?」
 沢はなかった。私の用意している水は、私のスタンドであるディープ・パープルで瓶の内側と外側の空気の熱をいじってできる結露を瓶に集めるという、すんごく地道であり地味な割に絶妙な加減がいる作業の賜物だったりする。私のスタンドの精密操作性は承太郎のスター・プラチナとタメを張れる。
「残念ながら沢なんてなかったわ。まあ、エースと似たようなものよ。色々と地道に頑張ってるの」
 エースの手の中にある瓶がちゃぽちゃぽと音を立てる間にも別の空き瓶に水を溜めている。
「そうか、ありがとう」
 お互いに疲れを隠せなくなりつつあっても、諦めずにいられるのは、仲間が1人でもいるという事が大きかったのだろう。
「ふふ、気にしないで。お互いにできる事ってけっこうあったじゃあないの」
 しかしこの1日に瓶1本分の水というのは、私が前世でのひとり旅中に飲料水の確保のために編み出した技術だった。まさかこんな形で活用するとは、人生何があるか分からないものだ。そしてエースはサバイバル生活をしていたと言うだけあって、穴を掘っては湧水を探し当てるし、それをちゃんと濾過して煮沸という、本で読んだっけな?という内容を実行して見せた。ルフィも同じ環境だとしたら、なんて逞しいのだろう。そして火を通せば食べらるモノは増える。
「よし、今度はうまくいくといいな……」
「ほんとうに、なんとかなってほしい」
 なんとか組み上げた船に乗り込んで出発するも、直ぐに浸水してくる。
「あー……これはダメそうじゃあないかしら?」
「おー……これは、沈んでんな……」
 ここからは、じゃぶじゃぶ沈む船の残骸を引き上げる作業に移る事になる。すでに2度目である。

 作業をしながら、少しずつ互いの事を話していた。
「……なァ、ボタンの父親ってどんなやつだったんだ?」
「父は、そうねェ……性格はひとことで言うと破天荒。好奇心旺盛で、じっとしていられない。料理上手で仲間を大事にしていた。私に戦い方を教えてくれたし、冒険の話も沢山聞いた。できないのは航海術くらいって人だったな……。本当は父のために戦って死ぬつもりだったのだけれど……、若いからって止められるし、弟に伝えなければならない事を教わってしまったから……伝えるまでは死ねないことになった。だから生き抜こうって思っていたんだけどなァ……」
「……けど、なんだよ?」
 エースは自分で聞いておきながら不機嫌になる。ああロジャーの仲間だった事を思えばそんなものかって思ったのだろう。
「えへへ、いまさらになって……あんたの生きる道を一緒に走ってみたくなった。だから、ここを脱出しても一緒に行かせてほしい……エース」
 パッと沈んでいた顔が少し驚いたようにこちらを見て、口を開けている。
「……それ、結婚の申し込みみてェじゃねェか?」
 そうとも取れる言い方になっていたかもしれない。でも、一緒にいられるならそれすらも良い気がした。
「ふふふ……私は、それでも良いよ?あんたの事、人として気に入ってるってのも本当だし、格好良いし」
「からかってんのなら……やめろ……」
 ふいと顔をそらすが、その頬が赤いのは見えていた。
「別にからかってなんかないよ……。最初の直感を信じなさいって兄のお嫁さんに言われたことがあるの。その直感を信じるなら、エースは最高だもの」
「っ……おまえ……!覚悟しとけよ!」
 すごく照れているのは分かる。けれど、どういう覚悟しとけよ!なのか、まだ分かっていなかった。
「え、なにを?」
「だー!この話はおわり!なんか別の話!」

 そんな話をして何度目かの船出はまたもや失敗した。さすがに2人とも疲れていたが、波紋とスタンドのお陰で私が居ないよりは余裕があるはずだと、思っている。