別に望んだ訳じゃない。1

変換のススメ
黒澤麗奈(レナ):特撮や警察もの特化の女性
妃理津子(リツコ):アメコミ特化の女性
降谷一美(カズミ):漫画特化の女性


嘘だろ、承太郎。いや、この世界に承太郎さんは居ないでしょうよ……しかし私は気付いてしまった。この世界が名探偵コナンとか言う漫画やアニメの中だと。
其れに気付いたのは新聞で工藤優作の記事を読んだからだ。辛うじて工藤新一の親だと知っていたから気付けたけれど、私は最序盤しか知らない。こんな事なら、もっと漫画を読むなりアニメを見るなりしておけば良かった。
ま、しゃあない。気付いたのは二十歳過ぎていた。頑張って巻き込まれない様に生きないと……。

***

未だ私は小学生になったばかりの時、私は前世の記憶と生まれ変わったと言う現実をようやく受け入れて、本やテレビドラマを観る様になった。けれど、古典的な文学や歴史は変わらないと言うのに、1980年代くらいを境に歌や漫画、小説にドラマ、映画などのサブカルチャー分野が大きく変わっていた。その辺が大好きだった私はショックだった。
仮面ライダーも戦隊ヒーローもウルトラマンも無ければ、何故か最愛のゴジラも無い。何だよゴメラって!ガメラと名前とデザインだけ混ざってるじゃねーか!ゴメスかジラースだったらまだなんぼか良かったのに!
だったら海外だ!と本屋でホビー誌やら何やらを読み漁った私は更なる絶望へ突き落とされた。
マーベルも何もねえ!スパイディも居ないし、キャップも居ない。バットマンもみんな居ねえ!つまり大好きな、地獄からの使者スパイダーマッ!も破天荒なデッドプールも見れないんだね。
そう思い至って、私は落ち込んだりもしたけれど、トランスフォーマーやガンダム等のアニメも踊る等の刑事・推理ドラマも全てが見られないと気付いてもいたけれど、それでも朝は来てしまう。

私の名前は黒澤麗奈。ごく普通の一般家庭に生まれたはずである。いや、私が小学生になったばかりの頃にシルバーブロンドの髪をした美人ママが交通事故で他界した。だから私と兄と父の三人家族である。兄と私は髪の色は一緒だ。目付きも二人して良くはない。けれど仲は良いと思っている。私はいつもノートに書き溜めた物語を兄に話して聞かせたし、兄は其れをちゃんと聞いてくれた。
母が早くに亡くなった分を、私はカバーしようと家事だってバンバンやった。前世分の人生が無ければ、厳しかっただろうから、それに関しては前世が有る事が良かったと思えた。

書き溜めた物語ノートは文章の組み立てが上手くいけば、一か月に三冊は出来上がる。其れ等のノートはジャンルやシリーズごとに纏めて、私の学習机の一番下の引き出しに詰め込まれている。
兄は良く其れを読みに来ているし、その感想も教えてくれる。だからこそ書くのは楽しかった。出来るだけ古い順に、けれど後に書く予定の物と矛盾の出にくい様に気を付けていた。ラジカセとカセットテープで、覚えている限りの主題歌やイメージソングにエンディングソングを録音した。アカペラだったけど。
そうし続けて、私が高校生になった頃に兄が警察官を目指していると聞いた。私が書き続けている様々な物語を読んでいる内に、目指すようになったと聞いて、嬉しかった。基本的には子供向けの特撮から、ティーン向けのファンタジー、大人向けだろう刑事物や探偵物まで幅広く書いていた。そのどれかが琴線に触れてくれたのだろう。
それからも書くスピードは落ちていないし、高校生になってからは、キーボードを始めた為、テーマソングも上手く録音出来るようになった。面倒臭がりの私が良くここまで続けられたと思う。

大学に入ってからも、卒業して警察として働き出してからも習慣は余り変わっていない。
変わったのは、この世界が何処かを知った事。兄が多忙になったらしく、連絡が取れない日が多い事。父が他界し、実は警察官で結構なお偉いさんだったらしいと知った事。そして行きつけの喫茶店が出来た事。

***

その日は非番で、いつも通りに自宅でノートに物語を書いていた。
けれど、途中でノートのストックが切れた為、文具店に行った帰りに、美味しい紅茶が欲しくなってしまった私は初めて見る喫茶店に入った。いつもはポアロと言うーーミステリー好きな店長なんだろうなと予想できるーー喫茶店へ行くのだから、この日は偶然だった。
そこで思い浮かんだ文章を活用したくなった私は、買った沢山のノートの一冊を開いて書き込み始めた。この日の物語は
ハジメと言う少年が探偵役のミステリーである。ノートの三分の一を消費した頃、ちょっと疲れた私は紅茶のお代わりを注文し、一息入れていた。そこに一人の女性が話しかけて来た。その女性は死んだママとは違うタイプの美人だった。
「ねえ、熱心にお勉強?」
「いえ勉強って訳じゃあ……ちょっと書いておきたい事が有ったので。」
「ヘェ〜、ちょこーっと見えちゃったんだけどね。ミステリー小説でしょう?私、見てみたいなあって。」
よく見ている物だ。まあ見せても良いけれど、中途半端な部分である。その旨を伝えれば、最初から見たいと言われて連絡先の交換をする事になった。
「じゃあ、いつでも良いからよろしくね。」
そう言った彼女の名前は工藤有希子と書いてあった。工藤って、まさかね。

そのまさかは、まさかだった。喫茶店で待ち合わせして家まで案内された時に、居たのだ。小学一年生の工藤新一君が。私が手書のミステリー小説を持ってくると彼には言っていたんだとか。
ハードル上げられてるけど、仕方ないだろう。読んで気に入らないなら、今日ココで彼らとの繋がりが終わるだけだ。

有希子さんに一冊目を渡す。
一応、金田一耕助の孫とはせず、作中の探偵であるオリジナルキャラクターである金田 優かねだ すぐるの孫の金田ハジメが主人公って事にしてある。初期に多かったトリックの流用は薄目にして、セクシャルな描写は無くした。
けれど、クローズドサークル物が多く、探偵役の主人公だけでなく、読者も推理に参加出来るスタイルは踏襲とうしゅうしてある。まあ、二部はスタートさせないつもりだ。そこまで読んでいなかった為である。
次々に読んでいく有希子さんに続いて、新一君も一冊目から読み始めた。
二人とも偶にハッとしたり、新一君は読めたぞ!と言わんばかりの表情をしてくれたりしていて、再現者としては楽しい。二人の読者を横目に、私は最終章を書き上げた。

「ねえ!もっと無いの?」
読み終えた新一君の要望に応えられる続編は持って来ていない。最終章は見せられないし……。
「第一の事件簿の分しか持ってきていなくて……また持ってきますから。」
「今書いてた分は?」
よく見ている事だ。
「これは最終章だからね。楽しみが薄れちゃうから、見ない方が良いかな。」
正直言えば納得してくれたらしく引き下がった。
「ねえ、麗奈ちゃん、この第一の事件簿……優作さんにも見せたいんだけど、どうかしら?」
工藤優作と言えばミステリー小説家として有名な人である。
「まさか、あの工藤優作さんに?私の拙い話を?恥ずかしいですよ。」
正直、私は記憶力は高いけれど、推理力に自信は無い。そんな場面に立ち会った事すら無いのだけれど。
「あら、大丈夫よお。ね、新ちゃん?」
「うん!面白かったよ!」
後の主人公君にそう言ってもらえたのは個人的には嬉しい。それがプロのお眼鏡にかなうかは、また別なのだけど。
「まあ、有希子さんと新一君がそうおっしゃるなら……」
ぱあっと明るく笑う二人は親子なんだなと感じられて微笑ましかった。

***

工藤優作さんに見せたハジメ少年の事件簿は、思いの外好評だった。他にも書いているだろう?と聞かれたが、推理物はコレだけですよと迂闊にも応えてしまい、沢山のノートの山を見せる事になっていた。
「コレは?」
「イギリスを舞台にした現代ファンタジーですね。」
「此方は?」
「えっと、とある秘密結社に改造人間にされた男が、秘密結社の企みを阻止する為に戦う話ですね」
「ふむふむ、コレは?」
と幾つものノートを見た工藤優作は、少しずつ出版してみないか、と言ってきた。無理だろうと思ったが、あっという間に出版社の知り合いに連絡を取って出版まで全ての段取りを済ませていた。
それと同時に、子供向けヒーロー特撮の原作者になってしまった。そんなつもりは無かったのだが、こちらは有希子さんの推しが有ったからだろう。

その内、同じ様な見覚えの有る前世での作品が少しずつ出回る様になった。それは前世ではアメコミだったもの、日本のコミックだったものに分かれていた。最低限、自分と同じ境遇の人間が後二人は居るのだろう。有り難く、アメコミの人の蜘蛛男を原作に東○スパ○ダーマンのシナリオを書いた。こちらもアメコミの人との調整はとんとん拍子で進んだ。つまり、知っているのだろう。スパイ○ーバース等の事も。
それからはずっと思い出すままに書き進めつつ、喫茶店に通ったり、映像化の出来を確認したり、その忙しさでは頑張って入った警察に居るのも難しくなった為に作家一本で生きる事になっていた。有り難い事に印税等のお陰で収入は充分である。

そんな中、アメコミの人と漫画の人とは打ち合わせが切欠で、プライベートでも合う様になった。
アメコミの人は妃理津子さんと言う女性で一つ歳下。漫画の人は降谷一美さんと言う女性で二つ歳下。歳の近さもあって、打ち解けるのは早かった。

2020/02/04
原作前のお話し。