私を見てくれる人 1

!捏造有ります。目の色など。
!名前固定です。

私はきさき理香りか。初恋は、早々に破れてしまった。姉の幼馴染みの小五郎さんは、私が物心ついた頃には既に、姉に恋していたんだ。もう少し早く生まれていたら、違ったのかも知れない何て、思った事も有った。けれど、二人に子供が出来て二人が学生結婚してから7年後……私は二人の娘である蘭ちゃんに付きっきりだった。二人は別居したんだ。よりによって蘭ちゃんは小学校に入学したばかりだったから、心配だった。出来る事はやってあげなきゃ、と必死だった。当然、蘭ちゃんが自分の母親である英理姉さんを求める気持ちは、当たり前に有るから、英理姉さんへのフォローのつもりだったけれど、蘭ちゃんは一人で泣いている事も有るって知っている。私は髪の色も顔付きも姉とは違うタイプだから、そう似ては居ないけれど、その中のほんの小さな似ている所を、蘭ちゃんは懸命に探しているのは感じていた。
髪色だって違って、姉は栗色の髪ブルネットだ思うけれど、私はダークブロンドのブロンド寄りと言う明るめの色だ。目の色だって、姉は光の加減で少し変わる程度の茶の強いヘーゼルで、私はグリーン寄りのヘーゼル……結構な印象の違いがあると思う。
こんなに違っていても、茶色っぽい髪色と目を、共通点にしている。もう少し母親として向き合ってあげて欲しかった。せっかく生存していて、離婚もしていないのなら、せめて蘭ちゃんとだけでも会ってくれたら良いのに。そう言っても、聞き入れて貰えはしなかった。
蘭ちゃんの面倒を見る様になってから、彼女の幼馴染みである工藤新一君も一緒にいる事が増えた。ここに、二人と仲の良い鈴木園子ちゃんが時折加わる。大人として生きた過去の有る人間として、出来るだけの事をしているけれど、上手く行っているのか分からない。アレは駄目で、コレは良いよと言った事が、家では全て許されたら、家で言われた事を優先するのは当たり前だ。其の方が自分に都合が良ければ尚更だろう。子供にとっては親の言う事の方が大きいと言う事実も有る。躾けをしなければ、一般常識を教えよう、なんて意気込んだ訳じゃあ無いけれど……子供達の事を思って言った事や行なった事、何方どちらも無に帰るばかりで、半年経たないうちから、もう頭が痛かった。

毛利家の夕飯の支度私済ませて、炊飯器のタイマーをセットし終えた頃に、ランドセルを背負った蘭ちゃんが三階まで登って来る。おかえり、ただいま、と言うやり取りをしたら、手洗いうがいをさせて、オヤツと飲み物を出す。一連の出迎えを終えて、毛利家の夕飯の買い物のついでにしていた、自分用の食材が入った買い物袋を提げて父と暮らす家に帰って夕飯の準備をする。
家事を済ませてから入浴し、次の日の学校の準備をして、宿題を終わらせて、就寝する。
朝は起きたら、朝食と弁当を作って、自分は作りながらサッと食べてしまって、制服を着たら、毛利家へ急ぎ、朝食を二人分作って食べ終えるのを待ちつつ、弁当を作る。二人が食べ終えたら片付けてから、蘭ちゃんに弁当を持たせて送り出し、学校へ向かう。
学校が終わったらスーパーへ行き、食材を買って、毛利家へ向かい夕飯を作る。

其れがルーチンだった。
そんな中、学校が休みの日の早朝に朝食を作る為に毛利家に行き、いつも通りに用意した朝食は、朝早く蘭ちゃんが新一くんの御家族と出掛けたらしい。私が知らないとは小五郎さんも知らずに居た様で、謝られてしまった。
知らずに二人分作った分に少しの惣菜を作り足して、お昼に回してもらう様に言えば、申し訳なさそうに「いつも有り難うなあ、理香ちゃん。」と頭を撫でてくれて、少し幼い頃を思い出した。
「ふふ、今度は前日迄に教えて下さいね、お義兄さん。」
「おう、ちゃんと言うよ。あ!そうだ!アイツら泊まりだし今日の夕飯は、一緒にポアロでも行こうか。いつもの礼っちゃあ何だが、何でも奢るからよ。」
「やった!お義兄さんと一緒にポアロって初めてね。」
思わぬ誘いに、笑顔で答えた。もう終わった恋だけれど、初恋って言うのは未だ私には特別なものだから、二人で食事という事が、ちょっと嬉しかった。嬉しいのは誰かとの食事というものが、久しぶりだったと言うのも有っただろう。

***

後日、帰って来た蘭ちゃんから話を聞いて、ちょっと羨ましいと思ってしまった自分を心の中で叱咤して、またルーチンを再開した。
(海か、最後に行ったのは前世だなあ。行ってみたいな。もし、恋人なんて素敵な存在が出来たとしたら、一緒に海とか色んな所に行ってみたいな……。)
なんて思っていた私は、ようやく気付いた。今の人生では、まともなレジャーに行った事ないって事。



毎日同じ事を繰り返して、私は公立高校の中で一番家に近い所に入って、毛利家の家事を最優先で行い続けた。行きたい高校を諦めると決めたのは中学三年の春だった。蘭ちゃんが可哀想だって誰もが言うから、私は愚痴の一つも聞いては貰えないだろうと思って、人気のない場所を探して、見つけた路地裏の隙間で一人泣く事を覚えた。其れを覚えたての頃に、嫌だって言った事は有るけれど、まともに取り合って貰えなかったから言うのは諦めていた。

入ってみたかった空手部も柔道部も諦めて、クラスメイトの遊びの誘いも断り続けて、気付けば私には友達と呼べる人が居なくなっていた。
家事をする時間を得る為に、テレビも殆ど見なければ、好きな読書も殆どやる余裕は無くて、お喋りする相手も蘭ちゃんや工藤くん達以外は殆ど居ない状態で、結構ストレスを溜め込んでは、家に帰る前に制服のままで路地裏に座り込んでいつも泣いていた。

***
2020/03/27