知りたくなんて無かった。

元ネタ


少し年上の幼馴染みへの初恋は、5歳の時に、両親の他界と共に施設へ入る私の引っ越しで失われた。
何とか生活に馴染んで、中学生になった頃には初恋はすっかり過去だった。新たな恋は、初恋の人にちょっと似た人で、やっぱりちょっと年上。切れ長の目にクールな人。きっと私の好きなタイプってこう言う感じなんだなって分かって、ちょっと可笑しかった。
学校の成績は常に全力で上位をキープして、奨学金を貰える範囲内になる様にしていた。高校は奨学金で通い、高卒で就職する事になる。高校生までしか施設には居られない。私も社会に出なきゃいけないって事。不安もあるけど、楽しみでもあるんだよ。それから、高校卒業する頃に、ヒロくんについに告白しようと思うんだ。この3年間好きだったとまでは言う気は無いけれど、ヒロくんの事を考えるだけで、此処まで頑張れたから。振られてもケジメってやつ。

「お前まで、そう言うのかよ。お前だけは違うって思ってた。」

「え?」

「もう話しかけて来るなよ。」

「どう言う……」

告白したら、良く分からない振られ方をした。私は思いの外ショックだったみたいで凄く苦しくて、追いかける事も出来なかった。

(もう話しかけて来るなだって……もう私には何にも無いんだなあ。)

諦めと絶望、だったんだろう。私は機械的に過ごしていた。手を抜く事はしなかったから就職もうまく行って、良い職場に勤められているのだけはマシだ。今勤めて居るのは、地方支社だからヒロくんにも、ヒロくんのお友達にも会わずに済むのはありがたいが、それだけだった。
そんな生活に活力が湧いたのは、職場の同系列企業の経営するスポーツジムを、同系列企業の人間は自由に利用出来るから、気分転換に行ってみると良いと、上司にすすめられて、行ってみたら思っていたよりも楽しかったからだろう。
すすめられるがままに、護身術を学べると言う、武術教室へ入り初級クラスを受講した。筋が良いと言われて、入社2年目には中級クラスを受講していた。本来の事務仕事も評価し貰えている様で、アメリカ支社へ行く為に英語も叩き込まれた。忙しいが充実していた。ああ、フラれて無ければ、もっと楽しかっただろうな、何て愛されない私にはあり得ない冗談を思い浮かべて居られる程度にはなっていた。

アメリカでは、会社の有する射撃訓練所での銃の扱いを教えられた。銃社会での自衛だと言われた。これまた、全く経験の無い事では有ったが、これも筋が良いらしい。
23歳になる年、アメリカに来て2年経った。本社の幹部が去年から様子見に来ていたのは聞いていたが、上の命令で直接会う事になった。コレが私の運命を大きく変える出会いだった。

***

「っは、あ、んむ……」
口腔に侵入する男の舌は、煙草の味だろうか、苦い味がした。
ジンと名乗った男と目が合った瞬間に、今までにない衝撃が全身に走って、そのまま目が逸らせなくて、気付いたら唇が合わさっていた。
背中をジンの手が撫ぜて、腰から臀部に至り、長い指がスーツのスカートをたくし上げ、尻の側からストッキングに穴を開けられる。ショーツのクロッチ部分に沿う様に破かれて、指が割れ目を撫でれば、ぐちゅりと粘質な水音が響いた。
「お前、もう準備出来てんじゃねえか。おら、脚を開け……挿れてやる。」
「っふ、う、待って、私、初めて、っ!や、あ……」
必死に訴えれば、ジンはショーツをずらして指で確認する様に撫で回した。
「っくくく、こりゃあ、本当だな……自己申告したお前に免じて、優しくしてやるぜ、名前……」
その低い声に名を呼ばれて、下半身の奥がキュウっとして、切なくて、ジンのシャツにしがみ付いていた。
「おいおい、煽るじゃねえか?」
「だって、その声、呼ばれ、たら、お腹の奥、キュウってする……こんなの知らな、っ」
「っ?!はあ、良いぜ、お前がそんなに望むなら、俺のモノにしてやるさ……覚悟するんだな、名前」

粘質な音がして、その度に言葉にならない声が、勝手に出てしまう。粘質な音をさせていた長い指がそろりと抜かれて、それだけでも刺激になって、背筋が震えた。
「挿れるぜ、力を抜け……チッ、口開けろ……」
力を抜いているつもりなのに、名前には出来ていないらしく、舌打ちをされて口を開けさせられる。二人の唇が合わさり、深いキスをくれるジンの背に腕を伸ばして抱きついた。一思いに突き刺さる痛みに名前の身体が跳ねる。悲鳴は飲み込まれ、涙だけが溢れた。けれど、ジンになら嫌だと思えなくて痛みすらも愛しく思えて、脚もジンに絡めて縋った。
「っ、うう、ジン、ジン、」
「名前、痛くねえのか、お前、」
「いたい、けど、ジンの好きにして、っああ!いっ、ひああ!」
ジンは自ら優しくしてやると言い出した手前、一応は気にしてやっていたが、此処まで言われて優しく抱いてやれる様な人間じゃあ無い。ゆっくりと動かしていた律動を、遠慮なく自分の快楽だけを求めるモノに変えた。

「あぐ、ひぃ!うぐ、あう!じ、あ!」
見上げた先にある、鋭い緑色の目、口角の上がった唇、銀色の頭髪、その持ち主たるジンに壊されんばかりに抱かれている事実に、この男に愛して欲しいと心が叫んだ。この男が愛おしいと、理性では無い場所が訴えた。
けれど、其れは声になりはしない。ただの悲鳴だった。


抱き潰す、とはこの事かと、ジンは己の精液に塗れて気を失った名前の頬を撫でた。もう、この女をハニートラップ要員の数には入れる気は無かった。手酷く抱かれ、悲鳴を上げながら、受け入れて欲しいと目で訴えて来る女など見たことが無かった。普通、こんな事をして来る奴など、離れたがるものだと、ジンにだって分かっているのだ。

「俺に愛してほしいって言うのか?愛に飢えてるにしても、悪食な女だぜ。」

***

ジンとの顔合わせから、彼の補助が仕事になると言われ、ジンに連れられて行ったのは、明らかに異質な現場だった。1000万ドルの入ったアタッシュケースと、何かの入ったアタッシュケースの交換という取り引きであったり、建物の爆破だったり、尋問と言う名の拷問だったり……殺しだったり。これが仕事だと言うのなら、最初から私にこう言う事をさせる為に今まで教育されていたのだと思い至るのは、案外早かっただろう。
けれど、初めて人が殺されるのを見た時は、もっと何か大きな感情を感じると思っていたのに、そうでも無かった事の方が私にとって衝撃だった。こう言う風になる様に教育されていたのだろう。今現在の行動も全て、教育されているのだと思う。今更気付いても、もう遅い、逃げられない。

***

初めて殺しをさせた日、さすがに動揺していた名前を、いつものように抱いた。これが俺達の逃れられない日常だ。俺の側に置く為には、殺しは特別な事では無いと認識させる必要が有った。多少なりと名前も察しているらしい。目は揺れているが、ベッドに組み敷けばいつも通り従順に俺を受け入れた。
これを幾度か繰り返せば、眼の奥に俺達と同類の暗い色が薄く滲む様になっていった。これを濃くしてゆくのが惜しいなどと何の気の迷いだ。其れこそが俺の仕事でもあると言うのに。

一先ひとまずの教育が済み、これからの働き次第ではあるが、上層部では組織の幹部候補者としての扱いで、本社と言う事になっている組織の本拠地に連れて行けば直ぐに、名前は俺の情婦だと言う事になっていた。まあ、違いは無い。こいつは俺のモノだ。
幾度も肌を重ねているが、名前には避妊薬を飲ませていない上に、俺も避妊などしてやった事は無い。其れを踏まえた上で、ここの所、名前は微熱が続き、眠気に悩まされ、急な吐気……その姿を見ていれば何が起きているのかなど、分からない筈がない。

***

私は妊娠していたらしい。ここのところずっと眠気が酷くて、体調が優れなかったのは、そう言う理由だったらしい。子供は、無事に生まれたら組織の息のかかった施設に入れる事になったと、ジンに聞いた。堕胎せずに済んだのだから、不満は言えないだろう。ごく普通の家庭と言うのは、もう望めやしないのだから。

悪阻があまり出なくなってきた頃から陣痛が始まるまで、事務仕事をメインに行って組織の病院で検診を受けたり、思いの外、穏やかに過ごした。
生まれた子供は一度も顔を見る事も叶わなかったが、名目としての名付けと出生届だけはさせて貰えて、その時に驚いた事がある。私の姓が知らないモノになっていた。いつの間にか私は黒澤さんになっていたらしい。ジンに聞けば、彼の本当の姓だと言われて、一番に思ったのは嬉しいと言う事だった。感極まってジンに抱き付いても、払い退けられなかったから、飛び付いてキスしてぎゅうぎゅうハグしても、ジンは許してくれた。
この日からは、こう言うタイプのスキンシップも許容してくれる様になって、セックスには前よりも、柔らかな感情を感じる様になった。セックスの頻度は妊娠する前と同じくらいだったけれど、ジンが医者に言われたらしく、避妊はする様になった。