!宮野家の事とか知らない。原作の赤井家の事も知らない。
***
今の私の名前は世良真純。男だか女だか分からない様な名前だけれど、女の子として凄く美人なママのもとに生まれた。嬉しい事にそんなママに似ていると良く言われる。実際、癖毛の癖の入り方と目の色、目元何てそっくりだと自分でも思う。惜しむらくは、髪の色と肌の色が似ていない事かな。
ママは綺麗なブロンドなのに、私は真っ黒。肌もママはシミ一つない白い肌なのに私は完全な地黒だと思う。日焼けじゃあ無くて、衣服で隠れる所も満遍なく健康的なちょっと色黒。
家族曰く、私の見た事のない、恐らくは御亡くなりになってそうな父とお揃いのカラーリングの様だ。
兄が二人居るらしいが、一番上の秀一兄さんと私は、性差以外はカラーリングも何もかもそっくりらしい。でも、一度も会った事が無い。何せ15歳も年上で、今はアメリカに留学しているんだと聞いている。
一緒に暮らす、もう一人の兄はカラーリングはママで其れ以外の外見的特徴はパパ何だろうな。その秀𠮷お兄さんは、私の11歳年上の高校一年生、と言う風に私達の年齢は、結構離れている。
秀一兄さんと、生きてるか死んでるか分からない父に会ってみたいと思う以外、不満の殆ど無い暮らしだった。
秀𠮷兄さんにも、ママにも愛されていると感じられる、前世何てものがあるから私は、他の同年代の子供とは如何にも違う感性を持っているだろう。
其れを見ても、母として兄として触れ合ってくれるのだから、真面に友達と言える人が居なくとも、私は私でいられたのだと思う。前世で培った正義感や善悪正邪。其れらを大きく崩さずに、生きていられる、恵まれた環境だと私は捉える。
本当は口が悪い事だけは直したかったけれど、直りそうもない。普段はそんなでも無いから勘弁して欲しい。
***
末の娘、真純が未だお腹に居る時に、夫からのメールに従い、夫である務武の生まれた国、日本へ移住し、イギリス人である事を隠して暮らす事になった。
私自身も日系英国人であった事も有り、下手な国よりは日本についての知識が有る。仕事の関係で日本語も英語なまりも無く話せる。幸い、二人の息子には、夫と共に日本語を教えていたから、家族皆が問題無く話せる。そう思っていたが、長男の秀一は真純が生まれる前にアメリカに留学を決めて、出て行った。だから一番上と一番下は互いに直接会った事は無い。真純の分別がつく頃には会わせておきたい。
新しい家族である真純には、息子達と逆に英語を教えている。幸いな事に物覚えが良く、日々、日常会話を日本語・英語で問題無く交わせている。絵本の読み聞かせを秀𠮷もしてくれていて、英単語も少しずつ覚えていた。あと二年で小学生だが、其れまでにイギリスに戻らないとも限らない。どちらでも過ごせる様に言葉だけでも教えて置きたかった。
*
真純は、他の子よりも多い勉強に文句も言わずに、むしろ進んでやっている様に見える。保育園にも行って居ない為に、自分のしている事を他の誰かと比べられる程の接触も無いから、とも言えるのかも知れない。その上、周りに居るのが年上ばかりだから、落ち着いた性格が形成されていると見るのが妥当だろう。
欲しいものを聞いても「ママと秀𠮷兄さんが居るから、だいじょうぶ。」と答える子供が存在するなんて、私は初めて知った。この子は、家族さえ居ればそれで良いと言っているのだ。だから、他の二人の家族の事を、教えられる分だけ教えた。そうして、教えた家族の事も含めて真純は、会った事も無いのに、好きになってくれているらしい、そう分かったのは、秀𠮷が持って来た真純のスケッチブックだった。お絵描き用に買い与えていた其れに、イギリス式の日付けと共に描かれた落書きには、五人揃って家で食事をする家族の絵が有った。
子供の落書きなのに、会った事も無いのに、秀𠮷に似ていながらも健康的な肌の色で黒い髪の男性は確かに、私の夫の特徴を捉えていた。そして、その次に背高く描かれたのは特徴を見る限り秀一だろう。子供の絵の割に、聞いた事と自分を含めた私達の見た目から得た特徴を、読み取れる程の絵は危険だった。
真純には悪いと思うけれど、これを見た誰かが、あの組織に繋がって居ないとは限らない。処分をしようと、そのページを暫く眺めてから、破って燃やした。
気付けば泣いていた。それは秀𠮷も同じだった。あの子には黙っていよう。もう少し理解出来るようになってからキチンと説明をしよう。
そう思っていたのに、無くなったページを見て息を飲むと言う、大人びた仕草をした真純に胸が締め付けられた。
「真純、其れはね……」
「ごめんなさい、ママ。似ていたのね。もう描かないようにする。」
家族で共に過ごしたい、そう思うのは、この子も私も同じだ。其れに、真純は幾ら落ち着いて大人びた子だとは言え、未だ父親の必要な年齢だった。
秀一は今年で20歳になる。大学を卒業したら日本に来て、真純の父親代わりをして貰えたら良いのだけれど。
***
小学校行くようになっても、私の生活は変わらず、英語での日常と勉強、日本語での日常と勉強が続いていた。
家では殆ど英語で過ごして、家の外では日本語で過ごす。其れに馴染んでいた私にとっては、二度目だと言う事を含めずとも、何とかなったのではと思える。何せ今回の私の脳は良く働く。記憶力も学習能力も良ければ、閃きだってしっかり有る。まあ、映画にドラマや小説の謎解き何か、秀𠮷兄さんには負けるけど、そういう時だって楽しい。何より自分と違う考えを聞けるのは勉強になる。
けれど、相変わらず同じ年頃の友人と言うものは出来なかった。私の言う事、成す事、全てが理解して貰えないらしい。其れは別に気にならないけれど、父親が居ない事、ママの外見、母譲りの私の目の色、そう言う事で揶揄われた時、私は思わず口汚くなってしまう。やっぱり口が悪いのはなおってない。
そんなある日、旅行へ行くと言われて、更に秀一兄さんに会えると聞いて、やっと会えるんだって、嬉しくて、好きな歌を歌って
初めて会った兄は、クールで
「えっと、無理よね、うん、分かってる、ごめんなさい。」
そう慌てて言ったら、ママが秀一兄さんと截拳道で戦い始めた。
「秀𠮷兄さん、どうしよう……また秀一兄さんとママが。」
本日二度目のバトルに、どうしたら良いのか分からかったけれど、ふと思い付いたのは、私も截拳道を覚えて今度は私が止めようと言う事くらいだった。秀一兄さんとママの截拳道がカッコよくて、私もやってみたかったから、丁度良いとも思っていた。
「うーん、今は母さんを応援する側だなあ……」
「そうなの。でもやっぱり、私が我が儘言ったのがいけないんだもの……止めないと。」
そう言って居るのが聞こえたらしいママと秀一兄さんが動きを止めて、ママが私を抱き締めた。
「真純が生まれて初めて言った我が儘なのに、私には叶えてやれない!すまない、真純!」
「は?生まれて初めてだと?」
「?」
はて、そうだったかな?と思い出そうとするが、よく分からない。望んだ事、願った事は沢山ある。それを口に出して言ったか何て覚えて居ない。
「真純の我が儘何て、今まで聞いた事は無いよ……きっと、こう思ってるだろうなって言う事はあるけど。」
「秀𠮷、その内容は?」
「待って、秀𠮷兄さん、言わないで。其れは難しい事だって私でも分かっているから。」
聞き出されたら、秀一兄さんは気にするだろう。だから聞かれたく無くて止めたけれど効果は無さそうだ。
「家族で共に過ごしたいって願いは、確かに難しいだろうけど、いつも一緒に居ない秀一兄さんには、ちゃんと言わないと分からないんだよ?」
サラリと言わないでと言った内容を言われた。
「別に、察して欲しいと思っている訳じゃあ無いもの。分からないままの方がいい事だって有るでしょう?」
凡そ7歳の子供に言える言葉じゃあ無いと後で思ったけれど、本心だった。
「こいつ、やっぱり俺達の血筋だな・…でも俺はココまで察しが良くは無かったぜ?」
「真純はお前より気遣いが出来る娘だ。お前たちを足して割れば、丁度良かっただろうさ。」
今日の第一次親子戦争以降、ママは男言葉になった。ちょっと居丈高に感じる程の新しい口調は、外見も相まって迫力があった。
「ふん、今更変わらねえさ。ただ、時間が合えば、互いに行き来するくらい構わねえだろう。」
ツンとそっぽを向きながら言った秀一兄さんに、嬉しくてパッと顔を向けたらチラリと向けられた目が、勢い良く逸らされた。
「何で、そんな事で笑うんだ。家族何だから当たり前だろ。」
照れた様に発された言葉に、私は遂に喜びを抑えられなくて、秀一兄さんの脚に飛び付いた。本当は胸に飛び込みたいのだけれど、身長が足りなくて太腿にくっ付くしか出来ないのがもどかしい。
「全く、秀一!こう言う時は抱き上げてやるんだ!」
「は?どうやって!」
「見ていろ。真純、おいで。」
慌てている秀一兄さんに、ママが抱っこのレクチャーしようと言うのだろうと察して、私は秀一兄さんから離れるのは名残惜しいけれど、次は兄さんに抱き上げて貰えるかも知れないから、と思う事にして、ママに駆け寄った。いつも通り抱き上げてくれたママに抱き付いてスリスリと肩口に頬擦りして、キスして自然に笑っていた。
「I love you mum.(ママ、大好き。)」
「I love you too my little girl.(私も大好きよ、可愛い子。)」
短いやり取りだけれど、いつもと同じ伝わる気持ちに胸が暖かくなってギュッとハグした。
「さあ、今度はお前の番だ。」
床に下ろされて、秀一兄さんの方へと促されて少し不安だったけれど、ママと同じ様にしゃがんで両腕を広げた姿に、不安は飛び去り、駆けていた。
柔らかなママとは違う、兄さんに抱き上げられて、きゅうっと顔を肩口に擦り寄せた。薄らと感じた煙草の匂い。しっかり筋肉の付いた胸板と、私と同じ癖を持った髪、同じ色の肌。この人が私の、もう一人のお兄さんなんだ!
「I love you Syuichi. (大好きよ、秀一兄さん。)」
思うままに言葉に乗せる。英語なら出来るのは、家での日常で生活でそう行動しているからなのだろう。
「I love you too Masumi.(真純、俺もだ。)」
呼んで貰えた名前と返って来た言葉に、幸せが溢れた。後から思えば、この時が兄妹が揃って過ごす時間の中で最も穏やかな優しい日だった。これから、こんな日がまた来ると、幼い私は信じていた。
きっと、秀一兄さんも秀𠮷兄さんも、ママだって、本当は願っていたであろう其れは、難しいものになって行く。
***
あの邂逅から、七年経って中学生だった私の家族として共に暮らすのは母さんだけになっていた。秀𠮷兄さんは、高校を出てから、養子になり羽田姓に変わっていたし、秀一兄さんとは、数年前に「もう会えない」と言われて以降、本当に一度も会えていない。
元々、会えるのは年に一、二回程度だったけれど、秀一兄さんと日本で会えるのは、嬉しかったし楽しかった。
だから、日本で秀一兄さんを見かけた時は嬉しくて、少しでも一緒に居たくて、悪知恵を働かせた。
その時に嘘をついた私の代わりに、切符を買いに行ってくれた秀一兄さんと一緒に居た二人の男の人の内、切れ長の目に癖の余り無い黒髪のお兄さんが、秀一兄さんが戻って来るまでギターベースの弾き方を教えてくれた。私は彼を忘れられなくて、ギターベースを始めた。後で思ったのは、ギターを覚えれば、一緒に演奏出来たかもしれないって事だった。でも、ベースはやめなかった。
スコッチなんて変わったニックネームの人だと思ったけれど、忘れられないのは彼が初恋だったからだと思う。遅い初恋だと自分でも思うけれど、本当の事だから、しょうがない。
けれど、その出会いを母さんは懸念し、イギリスへ戻る事になった。きっと彼らは秀一兄さんが潜入している例の組織だろうから。
***
2020/03/28