まさか、そんな!
文明の利器達の産まれる前に、産まれ直したらしいと気付いた時に思わず叫んだのが、ソレだった。名前ではなく、ヘカと呼ばれていた。周りの者達の様子や言葉、名前等から推測するに、古代ギリシャと言うか、ギリシャ神話を髣髴とさせた。
ある日、ティタノマキアを終えて一息ついた頃、実母アステリアが海に身投げして死んだ。男に言い寄られ、逃げているうちに逃げ場を無くして海へ飛び込んで、その貞操を守ったのだと言う。
母の亡くなった海に花を手向けに行くと、そこには島があった。島は母の遺体から出来たのだと、動物達が教えてくれた。そして、その島には叔母が2人の赤子を抱いて倒れていた。慌てて3人を介抱し、事情を聴くと、とんでも無かった。この事で私は確信した。私はギリシャ神話っぽい世界のヘカテーなのだと。ヘラクレスが生まれるとしたら、その最初の妻子が酷い最後では無い事を祈っておこう。
父ペルセスと共にオリュンポスから見てずっと東側に住んでいたが、十分大人になった頃、ゼウスらの命令で逆らえないのだと言いながら、簀巻きにされて父に川に投げ込まれた。まさかのパターンにビックリだ。生まれて直ぐに川に投げ込まれて冥界へ流れつくか、神々の使いっ走りかの2通り。後者だと思っていた。
アケロン河に流されて、行き着く先はハデスが居る冥界だ。まあ、ハデスなら良いか、と思ってなされるがまま流された。
「おやおや、話には聞いちゃいたが、本当に流されちゃったんだ?」
河から引き上げられ、聞こえて来た気怠げでセクシーな声は冥王ハデスのものだった。
「ああ、ハデス様ですか、ちょっと助けて下さいませんか?」
「良いよ。こんな暗くてジメジメした所に流されちゃって、酷い話だねえ」
言いながら縄を解いてくれる。青っぽい色の肌に黄色い目、頭部には青い炎が燃えている。この世界の神々は、変わった色合いが多いのだ。
「そうですか?オリュンポス山勤務より良いと思いますよ……私、嫌いだもの」
「おやおや、そりゃ何で?」
「私の母はゼウスに言い寄られて、逃げ場を失って海に身投げしたアステリアです。覚えてらっしゃいます?それに、叔母も望まない子を宿して、ヘラに呪われて苦労したんですよ。好きになれっこ無いわ」
「ああ、あの……そりゃ気の毒だ。で、ヘカテちゃんは、どうする?このまま俺の部下になる?」
「ええ、私で良ければ、お側において下さい」
「うーん、その言い方、良いね。良い女に言われると更に、良い!」
「あら、お上手ですね。まあ、ゼウスより良い男ですねって言っておきます」
「そう?俺、本気にしちゃうかもよ?」
「嘘は言ってませんよ。さ、これからよろしくお願いします、ハデス様」
自然と出た笑顔で言って軽く頭を下げる。
「よろしく、ヘカテちゃん」
それからは仕事を教わりながら、ハデスの身の回りの世話もした。何故だか所謂侍女が居なかった為、自分で全てしていたと知って引き受けたのだ。
実務も1人よりは捗るらしく、ハデスの機嫌は良さそうだ。
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2019/09/02 記
2020/07/04 移動