第一話 謎の怪獣と謎の巨人


今年二十ニ歳になる石刈アリルにはアリエと言う六つ年上、二十八歳の姉がいる。アリエはノンフィクションライターとして、それなりに売れている方だ。六年前に両親が事故で他界後は、姉のアリエが高校へも行かせてくれていた。


「ただいま、姉さん……地震?」
帰宅して直ぐに揺れを感じて立ち止まる。アリエは、じっと窓を見ている。
「ああ、おかえり。アリル……」
窓に赤い光が映ったように見えてアリルは窓をじっと見たが何も分からなかった。アリエがその場を離れテレビを付けると、テレビには予想もしないモノが映っていた。
「なに、これ……今の時間の特撮ってドンシャインしか放送してない筈でしょ……」
「違うわ、アリル。よく見て。これ本物の怪獣よ。」
本物の怪獣、その言葉はアリルの脳を揺さぶった。思わず立ち上がったアリルの腕をアリエがそっと握る。
「都市伝説のウルトラマンが居たら、あの場へ行って戦ってくれるのにね。あら、どうしたの?」
「ううん、何でもないよ。」
−−−あの場に行って戦ってくれるのは、ウルトラマンだ。私みたいな唯の人間じゃあないんだ。
「でも、ウルトラマンが本当に来てくれたら良いのに。」
「アリルもそう思う?」
「まあね。でも一番良いのは、怪獣が出ない事だよ。」
「そうよね。で、ウルトラマンになりたいって思う?」
急に何を言うのだろうと、アリルは戸惑いながら、正直に答える。
「ええ?なりたいって言うよりね、もし力が有ったら、姉さんとか、この街とか、みんなを守る為に使いたいって思うよ。」
「アリルは私を守ってくれるんだ?」
「当たり前でしょう。でも、姉さんは身体能力高いから、心配ないかもね。」
意外そうなアリエにアリルは何を当然の事をと思いつつ、アリエの身体能力の高さを挙げた。
「ふふ、必要な時は私が守ってあげる。」
「それは嬉しいなぁ……でも私だって同じよ。あ、怪獣消えた……不思議。」

それから怪獣は、もう出ないんじゃないだろうかと思い始めた頃に再出現した。それと殆ど同時に現れた巨人……それはウルトラマンに違いない。目付きは良くはないが怪獣の進行方向へ立ち塞がる等しているところを見ると、目付きなんて気にならなかった。ああ、やはりウルトラマンは居たのだとアリルは、胸をときめかせた。

戦う姿を見たアリルは、そのウルトラマンを何故か、ひどく羨ましいと思った。
その羨む後ろ姿をアリエは緩く抱いて囁いた。
「アリルは、子供の頃からヒーローもの大好きだけど、悪役も好きでしょう?実物はどうだった?」
「私、ウルトラマンと怪獣なら、ウルトラマンかなぁ……あのウルトラマンってべリアルっぽいけどゴテゴテしてるよりシュッとしてる方がカッコいいし。」
「あら、見た目の問題?」
「実害が出てるのに、呑気だとは思うけどね。私、良くテレビで特集してるモノクロ写真のべリアルって見た目は結構好きなの……姉さん?どうしたの?」
急に腕の力が増した姉にアリルは訝しむが、アリエは楽し気な笑い声を短くあげる。
「……ふふ、いいえ。それ、私にだけ教えてくれたの?」
「うん、まあ……姉さん以外には言えないよ。怖がってる人、多いらしいじゃない?」
「でしょうね。私は怖くないけど、アリルもそうとは……良いことを知れたよ。」

痛い程の背後からの抱擁の意味を、この時のアリルは知る由も無かった。



2018/10/07 up
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