第四話 想い


話しをしていて、生活を共にしていて、段々とアリエがベリアルだと受け入れられた頃、アリルはベリアルに連れられて沖縄に居た。
「この身体ともお別れだ、堪能しておけ」
とアリエの姿で抱き締められたりした事で、何となくアリエの肉体からベリアルが抜け出るのだろうと予想はしていた。
けれど、伏井出ケイから何かを奪ったベリアルが、そのまま自分を取り込んでしまう何て想像だにしていなかった。

そこは、ベリアルの精神世界と言えば良いのか、彼の思いと記憶がアリルの中に入って来た。

同じ場所に立っていた戦友に、遅れを取った。その差を埋めたいが為にベリアルが欲したのは力だった。
けれど、その思いは拒絶され、求めたプラズマスパークには、その身体を焼かれてしまう。
ーー力だ!力が欲しい……!超えてやる……俺を見下したあいつらを!
プラズマスパークに手を出し、身を焼かれた事で、光の国を追われてしまい、果てない宇宙を彷徨った。
ーー光の国が憎いか?私はレイブラッド。全ての宇宙を支配する者。お前に力を与えてやろう……。
彷徨い、力尽きようとした隙を突いてレイブラッド星人の怨念がベリアルを闇に引き摺り込んだ。
ゼロとの戦い、ダークネスファイブ、ストルム星人と共に光の国への復讐を始め、その中で作ったジード。そしてジードを作る為のパーツたるアリル。

ああ、この人は遅れた一歩の差を乗り越えたいが故に足掻き、その為の力を求めていた。得られなかったモノを探して見付けられ無かった。その過程で何度も倒され蘇って……そうして、得たモノは失って来ている。
ーー私に何が出来たのだろう。共に生きた時間は、私の人生の殆どだったけれど……ああ、少しでも貴方の魂の安らぎに成れていたのでしょうか?

黒い背中にそろりと触れるアリルは泣いている。
「何だ、これから私が滅ぼす場所に残りたかったとでも?」
成熟した女らしい身体がぴったりと背に身を預けて、ゆっくりと両腕が腹と胸に回る。
「何だ?」
「私、貴方に会えて良かった……偶然かもしれないけれど、選んでくれてありがとう、ベリアル」
泣きながら、ぎゅうぎゅうと抱きつくアリルの言葉を黙って聞いていた。何を言えば良いのかなど知らない。けれど、衝動的に身体は動いて己れより小さくて柔らかな身体に向き直り腕に収めていた。
それに応えて背に手を伸ばすアリルの顔は、涙で濡れているのに薄く笑んでいた。その表情に組み敷かれ乱れる様を思い出し、堪らず唇に吸い付けば自ら口唇を開くアリルの口腔を遠慮なく貪った。
「っ、は、好き!っん……ベリ、ア、っふ……あ、いしてるの、っん」
アリルの為の息継ぎの間でアリルは息も絶え絶えに言葉を紡ぐ。愛していると、睦言の様な其れにしては必死に感じて、唇を解放してやれば胸元に縋ってやはり同じ言葉を呟いた。小さな呟きもベリアルに聞こえない筈も無い。
「勝手に細胞を利用し、ずっと騙して、無理矢理に無垢だった身体を暴いた私を愛すると言うのか?」
初めの頃は覚えていないだろう。痛みで快楽など何処にも無かった初夜の事など。
「誰かを好きになるのに、誰かを愛する心に、理屈は存在しないの。だから……私は苦しかった。でも、私は後悔してない、貴方を好きに成った事……愛してる事」
ほんの少し前に漸く、芽生えていた感情がアリルの感情と合わさり、ベリアルは何万年も前に捨てたモノを、知らずして確かに拾い上げていた。けれど、それを発揮するにはレイブラッドの因子が邪魔をしているとはベリアルですら気付いてはいなかった。
「私はそんな類いのモノは何万年も前に捨てたよ」
けれど、いつかケンに言ったのと同じ様な事を言う声に棘は無い。
「うん、良いの。私が先に死んじゃうだろうから……伝えられる時に言っておきたかった、それだけなの」
この生き物の一生は花の様に短い。それが、地球人と言う生き物だと分かっていた。それなのに何故、こんなに其れが惜しいと思うのか。
それをゆっくり考える暇は、もう無かった。戦いの時だ。


閉ざされて行く空間で戦うベリアルとジード。段々と消耗して行く中で精神が研ぎ澄まされたのか、感情的になったのか、それらが合わさったからなのか……ジードにはベリアルの記憶、怒り、悲しみと言った感情が伝わる。

アリルが見たものとほぼ同じ記憶を見たジードは、もう一つ別の記憶に触れた。
ーー私は後悔してない、貴方を好きに成った事……愛してる事。
そう告げられて愛おしいと、確かに感じているのに巣食う闇が邪魔して気付けて居ない。

「何度も何度もあなたは生き返り、深い恨みを抱いて……折角、愛しても……!」

いつしかジードはベリアルを抱き留めていた。

ジードがベリアルの記憶を垣間見て、その内面を見つめて、理解者と成った時、ベリアルの取り込んでいたストルム器官の作用なのかレイブラッドの因子が逃げる様に抜けていった。
その精神は、かつてウルトラマンケンと共に戦っていた光の戦士、光の国のウルトラマンベリアルへと戻っていた。

「疲れたよね、もう……終わりにしよう」

2019/11/30


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