06-賽の河原


真島に誘われ訪れた先は、真島建設がビルを建てている場所の地下だった。
「こないな場所が新宿の地下に有ったとは」
まるで江戸時代の吉原の様な街並みだけでも驚きだったのに、その先に有ったホールの奥では、巨大な水槽にアジアアロワナが悠然と複数匹泳いでいた。
「過背金龍をこんな風に飼育できる環境……驚きですわ」
毎日の水換えは何百リットルも必要だろうし、コレだけの水槽の壁を磨くには水槽に潜る必要がある。専任のスタッフが複数必要な超大型水槽に名前の目は奪われた。

「ここは賽の河原……本当の価値は、こっちや……来てみぃ」

と、真島は大理石のデスクにガンッと音を立て、頭突きした。

「ちょ!?え?真島さん?って、おおお、なんこれ……カッコいい……」

突然の真島の行動に驚く名前だったが、デスクの周辺の床がエレベーターの様に沈み、モニターだらけの部屋に2人は運ばれた。

「これが、この土地の本当の価値や。きちっとメンテナンスせな意味無いんやけど、まあ今んとこはオレ1人で何とかやっとるわ。名前チャンはパソコン使えるんやから、出来るやろ」

つまり、この量のサーバーをメンテナンスするから手伝えという事らしく、この日から賽の河原の監視カメラとサーバーのメンテナンスも仕事に含まれたのだった。

「まあ、今度からで良えで。メシ食いに行くで〜」

「真島さんのオススメの店、教えたって下さい」

「おお、美味い店教えたるわ。今日は奢ったるでぇ」

「お、良えんですか?」

「こういう時は遠慮せんと奢られとき」

結局その日は梯子酒となり、帰宅は深夜0時過ぎだった。

「わざわざ送って貰うて、ありがとう御座います」

「いやぁ、名前チャンもイケる口やってんなぁ!」

「真島さんこそ、ようけ飲んでらしたやん。ほんま楽しかったぁ!」

「そうか〜、また飲み行こや。ほな、早よ寝ぇや」

「はい、おやすみなさい……また、楽しみにしとります」

「おう、楽しみにしとき。おやすみ」

安アパートのドアが閉まり、名前は風呂を済ませ、早々に床に着いた。
布団の中で、いつの間にか建設の仕事と真島組の仕事もさせられる事になったな、と思いつつ意識は夢の中へ溶けていった。

次の就業日から、名前は真島に連れられて賽の河原のメンテナンスもする様になり、プレハブ小屋よりも、あの隠しエレベーターの部屋や、ディスプレイだらけの隠し部屋での事務仕事をする方が増えていた。
それでも、同じ分のオヤツや昼食だけは用意して、隠しエレベーターの部屋か隠し部屋で自分で作った弁当を食べるという風に変化はしていた。
けれど真島組のメンバーが増えて行く為に、早い者勝ちに成りつつあった。ありつけない者が出始めてからは、予め弁当を配達してもらう様に名前が手配した。

「はあ、もう昼やん、道理で腹減ったわ、名前チャン。今日の弁当は何が入っとるんや?」

「私のと真島さんのは、メヒカリの唐揚げとチーズの竹輪巻き、ほうれん草の胡麻和え、卵焼きが入ってますよ〜。味噌汁とおにぎりは何時も通り、みんなと一緒ですわ」

地下で仕事を良くする様になってから、自分の分だけ弁当を作って来たのを見た真島が自分のも作ってくれ、と言うので今では2人分の弁当を作る様になっていた。

「メヒカリ?なんやそれ?」

「深海魚なんですわ。美味いんですよ〜。こっちにメヒカリ売ってへん事を言うたら、実家から祖父が送ってくれたんですわ。小ちゃいメヒカリやったんで、頭とハラワタを取って、唐揚げにしたったんです。まあ、私も久々に食べますねん」

水筒に入ったちょっとぬるくなったお茶を2人分注いで、大きめな弁当箱を真島の前に、中くらいの弁当箱を自分の席に置いた。
「頂くでぇ」
「はぁい」
蓋を開けた真島が「思ったより小ちゃい魚やなぁ」なんて言いながらぱくりとメヒカリの唐揚げを口にする。
「ん、イケるやん。やっぱ料理上手いわ」
名前は「恐縮です」なんて言って弁当の蓋を開けた。
「はぁ、名前チャン達がウチに来て、たった5か月やのによう馴染んだなあ。半年も経ってへんとは思えんわ」
弁当を食べ進めながら2人は会話する。
「先日なんて、あいつらもウチが売られた喧嘩に混ざっとりましたからね。まさかあんなに早く馴染むとは思いませんでしたけど……私も男やったら、と思うてしまいましたわ」
「なんでや?なんで、ウチが売られた喧嘩と名前チャンが男やったらちゅう話が繋がるんや」
「ああ言うの見とったら……私、男やったら真島さんの子ぉに成りたいやろなって思うただけです」
「せやけど名前チャンが男やったら、此処には居らんわ。それにこないなベッピンさんを男にしたら勿体無いわ」
「もう、あんまり褒めると調子に乗りそうになるわ。罪な男やなぁ」
日常会話の冗談だろうと、名前は内心を少しだけ吐露して弁当の蓋を閉めた。
「その気になっても……良えんやで。ほな、ご馳走さん」
真面目な表情と低い声で言われた言葉に、名前は固まって頬を赤く染めていた。
弁当の蓋を閉めて茶を飲んで作業に戻った真島に名前は内心「ズルい、言い逃げされた」と思った。
頬を赤らめてしばらくぼんやりしていた名前に真島の方は「脈アリやな」と思っていた。

2019/01/31 up
2019/11/21 移動

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