フレイド|もう少しだけ 02
!「**の理想みたいな話」の後の話です。

夏休みの補習はしょうがないと思って居ます。校外活動が忙しいのですから。とは言え、当の原因の一端であるフレイドに自分もだと言われて、思わずその名で呼んでしまって、急にスイッチが入ったみたいに彼はキリッとした声になってフレイドと呼んだ事を咎められて仕舞いました。ちょっと申し訳無いと思って、謝る為に次の日は、眼鏡を掛けた彼を探しました。彼が連絡先を、と言って居たので、其れも交換するつもりです。
フレイドの時と違う話し方も態度も、本当の貴方だと思うから、もう少し話して見たいのです。其れに、見えない上に触れられない彼との性行為は、少し辛いのです。其れをやめて欲しいと伝えたいと言う考えも有ります。

この時間の電車は相変わらず空いて居ます。だから直ぐに見つけられました。早速、座席に座る彼の方へ向かいました。
「おはよう御座います。」
「へ?ぅあ、あ、おはよう、御座います…(は、話し掛けられてる?俺が?)」
後半は小さくて聞こえませんでしたが、ちゃんと応えてくれた事にホッとして右隣に座ったのです。
「はぇ!?(嘘だろ、隣に座ってる?!あ、しかもこっちに微笑み掛けている!あんな事した俺に?!)」
「あの、ええと、私、貴方に聞きたい事が有るのです。宜しいでしょうか?」
小さく聞こえないくらいの声で呟く彼に、首を傾げてしまいますが、私には聞きたい事が有るのです。
「お、俺に?し、つもん…ですか?(答えられる事なら何でも答えたい!俺がどんなにお前を好きか幾らでも語ってやれる!)」
「はい。貴方のお名前を知りたいのです。此処で私が呼んでも良い名前を教えて欲しいのです。」
フレイドと呼ぶのは彼が嫌がった。確かに活動中以外では私もムーンクレイモアとは呼ばれない。当然のことでした。
「ぉ、俺の名前?」
やはり名乗れ無いのでしょうか?大人しく引き下がろうと思いましたが、彼が未だ何か言おうとして居ました。
「…トモミ、です。俺の…名前。」
教えて貰えて嬉しくて、私は莞爾たる顔になっていた事でしょう。彼もほんの少し笑顔です。
「トモミ、くん。ではトモくん、と呼んでも良いですか?」
「はぃぃ、もちろんですぅ…(俺を名前で!うう、明日は何が降っても驚かない程の出来事だ!)」
「ふふ、嬉しいです。」
「お、俺も、その、嬉しい…です。(名前を呼ぶだけで嬉しいって本気か?お前が?俺の?うう、好きだ!)」
「あ、私の名前、「知ってます!」」
被って言われた言葉に、私は驚きませんでした。
「ええ、ですが、きちんと貴方に名乗りたいのです。私は由利子です。宜しくお願いします。」
「俺が、由利子、って呼んでも良い、んですか?」
「もちろんですよ。私達、これで普通に知り合えました、よね?」
この名前で呼び合っている間だけは、憎むべき敵だとか思い出さずに居たいと思うからこその、問いでした。
「あ、ぁ、良いんですか、俺、酷い事を…」
「今は、ただのトモくんと私で居させて下さい…其れに、インターネットを見て分かった事が有るのです。貴方はあの時私に優しかった。私、痛くは有りませんでしたから…。」
インターネットには、私がフレイドに連れ去られてから、フレイド×ムーンクレイモアと題されたR18小説や漫画、イラストが大量に溢れていたのです。その中には、恐ろしい物の方が多かった故に、一般人である彼らの発想の方が恐ろしいとすら私は感じていました。
「は?!あ、え?アレを見た、何て…俺があんな事をしたから、あんな妄想をされて…すみません…俺のせい、です。」
彼は私よりもインターネットやパソコンには詳しいから、知っているのも無理は無いのでしょう。
「待って、謝らないで下さい。貴方はとても優しく私を扱ってくれて居たと、思い知ったのです。私はとても、その…貴方に、初めて、でも気持ち良くして貰えていたのですから…。」
後半は恥ずかしくて、彼にくっつくようにして耳打ちして伝えました。
「っ、やっぱり、俺、好きです。」
近くなっていた体をそのまま抱き締められて、思わず抱き返していました。
「ぅう、良いん、ですよね、俺、キスしたいです。」
「あの、待って下さい。伝えておきたい事が有るんです。私、昨日の事を謝りたくて…。」
「あ、謝る?」
驚いた様子の彼に、忘れてしまったのだろうかと思いつつも、私は頷きました。
「貴方の名前を知らなかったとは言え、あの名前で呼んでしまいました。申し訳ありません。」
「ひぇ、いや、俺は気にして、なぃ、です。」
気にしていないと言う言葉にホッとしてこれからの事を提案しました。
「有り難うございます。あの…此れからはあの姿で無い時だけでも、私と貴方と言うただの人として貴方と付き合いたいのです。」
一気に赤面した彼の顔を覗き込むと、眼鏡の奥の目が潤んでいました。目が合ったと思ったら、ぎゅうぎゅうと抱き締められていました。驚きましたが、身動ぎする隙間も有りません。
「つき、ぁう?俺と?!っっっうう、結婚しよう!由利子好きだ!好きだ!」
その言葉は、快楽の波に呑まれながら聞こえた物と全く同じで、とても驚きました。
「?!っあ、あの時の事は、本気だったのですか?」
「あ、当たり前だ!どれだけ俺が、お前をずっと前から、その…好きだったのかと言う事も、ちゃんと、つ、伝えたと思っていた、んですけど…。」
私を離して肩に手を置いた彼の、段々と小さくなる声に胸が締め付けられて、苦しくなりました。
「っ!ごめんなさい、そんな、私、あの時は意識が飛びそうで、てっきり都合の良い甘い夢を見ていたのだとばかり……あ、“都合の良い甘い夢”?」
嘘だと思いたかった。フレイドに愛されると言う内容が都合の良い甘い夢だと言うのなら、自分が其れを望んでいる事になるのですから。
「っ!本当、なんですか?俺に好かれる事が都合の良い甘い夢だと?ああ、幾らでも、言う、言うから…俺と、一緒に居て下さい…。」
きゅうっと胸の奥が切なくなって、込み上げる想い。此れは愛おしいと思う気持ちです。憎むべき敵、と言うのは今は忘れて、と言い出してのは私です。素直になろうと思ったのです。
「此れから、よろしくお願いしますね、トモくん。」
「はい!」
嬉しそうに笑う貴方の姿。ああ、何て愛おしいのでしょう。

***
すげー長くなりました。
本編のラストトラックの後の妄想です。
どう考えても推しを前にした俺ら的な反応って言う素敵なお声を聞けてキュン死にしそうでしたので、此れが出来上がりました。
文体変えるの難しー!
2020/06/16
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