イグニハイドの副寮長は異世界人 1
知らない場所で、よりによって棺の中に居たらしい私を起こしたのは知らない仮面の男だった。
カミーリア・ゾルディックとして生まれて、その前の日本人としての感覚は食事への感覚と身内への愛情だけが残っているのだと思う。
前の名前は偽名としてたまに使うけれど、母からの遺伝のお陰で疑われる事は無い。ストレートの黒い髪に黒い目、三番目の弟以外は皆同じ色だ。私は兄と同じ操作系で、私が操作するのは空気。空気を真空にしたり毒霧にしたり…まあ放出系じゃあ無いから、近付いた方が効率が良いのは確か。けど、円の範囲内なら遠い程効果は薄いなりに使える。知ってる毒や薬を霧に出来るのは、ゾルディック家の教育の賜物に違いない。私達は常に新しい毒を食らい続けているから。
ちゃんと鍛えられている上に、警戒心がゼロな訳が無いのに、知らない場所で、仮面のNRCという学校の学園長であるディア・クロウリーと言うらしい男曰く、「転移魔法で記憶が曖昧になるのは良くある事」であり「此処はNRCと言って、この世界でも名門校である」ことと「私が新入生」だと言う事になっているらしいと知った。
学費とかの金は…適当に本業をしたら稼げるだろうが、其れ迄は如何するか…ああ、そうだ今も身に付けているアクセサリーを売り払えば多少は何とかなるだろう。良いものを揃えていたのだから。幸いにもお気に入りの服を着たままでも有るらしい。それも全て黒に紫と金で彩られた衣服で隠されているけれど、コレは近しい年齢の者達は皆、着用している。しかし骨格を見れば男しか居ないと分かって、不思議だと思った。
鏡の前に立たされて鏡に名を聞かれた。
「カミーリア・ゾルディック」
正直に、今の名を答えて鏡の中に有る顔を見つめた。念では無さそうだ。けれど不思議な力が鏡にも、彼らにも念のように渦巻いていると言う不思議な感覚だけは分かった。
「汝の魂の形は…イグニハイド…」
イグニハイド?良く分からないが、ディア・クロウリーに促されて浮かぶタブレット端末の有る方へ向かった。
***
イグニハイドと言うのは寮の名前らしい。何となく分かって来た。此処はちょっと自分の背景をでっち上げておく必要があるだろう。
魔法士の居ない“ど田舎”の出身で有ると言うことにして、実家の家業を手伝う為に此処に来るつもりは無かったのに、何時の間にか入学式に居た。だから全ての金銭を用意出来ていない上に、制服も学用品も全て用意出来ていないと言う事にしよう。もしかしたら正規の新品よりも中古価格って事で制服等も安く入手出来るかも知れない。そうでっち上げた説明に、イグニハイドの寮長は御古の制服ーーサイズが変わったらしいーーを一通りくれた。お代は要らないらしい…だとしたら多少は何かをしてやらなきゃならんだろう。
だから、一先ずの金銭を得る為に家から持って来たアクセサリーを売りたいと言えば、ミステリーショップと言う学校の売店に相談してみたら?と言われて、そこでアクセサリーを取り敢えず一つ売った。自室となる四人部屋でパンフレットや授業料の振り込み先と振り込み額を確認して、再び寮長の元へ行った。
しかしこのイデア・シュラウド寮長は、少し…いや、かなり対人恐怖症と言うか、人前で話せないタイプの様だ。所謂式典にもタブレット経由での参加だった。私は一人部屋が欲しい。イグニハイドとサバナクローの副寮長はパンフレットでは空席だった。
「寮長、副寮長の部屋は一人部屋ですか?」
「え?あ、ああ、うん。そうだよ一人部屋だけど…」
「私、副寮長やりますよ。副寮長が居れば式典の代理出席も可能でしょう?」
代理出席と言った瞬間、寮長は目を見開いて勢いよく近付いて来た。
「ほ、本当に?!やってくれる?こっちが部屋だから、つ、使って。あ、ちょっと待って…あ、ちょっとこっち来て」
今度はパッと離れて部屋へ戻ったかと思うと、部屋に手招きされた。制服貰った時も思ったが、散らかっている。ゴミはゴミ箱に入ってるから良いが、本やゲームソフトにテーブルゲーム等があちこちに積んである。一人の兄を思い浮かべて、そっちの方が片付いてたなと、思いつつ、寮長の動きを見ていた。
「あった…これにサイン、したら…教師に提出しておいて。あ、明日でいいよ、今日はもう遅い、から」
「分かりました」
しかしまあ、英語が共通語らしいのは有り難い。今はハンター文字に日本語に英語で済んでるが、独自の言語だったら苦労しただろう。
「では、失礼します。おやすみなさい、寮長」
「あ、うん。おやすみ」
その日はさっさと部屋に戻り、徹夜で教科書を読み込んだ。そして分かったのは、絵本から読むべきだろうなと言う事だった。
***
2020/08/27
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