違う世界
父:ブルーノ(人魚)210cm、90kg
母:ショウ(人間)157cm
***
「え?ああ…私の世界は監督生とは違うよ?」
「そうなの?!え?どう違うんだ?」
アキの言葉にエースが大声で聞き返した。食堂に居た生徒達は何事かと聞き耳を立てているとも知らず、監督生も興味津々で身を乗り出した。
「どこで分かったの?」
「ああ、監督生の世界には人魚って居ないんでしょう?」
「うん、聞いたことないなあ」
「私の父は人魚よ」
「ええええ?!」
聞き耳を立てていた生徒までまとめて叫んだ。獣人は耳を押さえた。
「アキさん…あなた本当に?」
今まで遠くで聞いていたアズールやリーチ兄弟が気付けば、近くに来ていた。
「えっと、本当ですよ。一目惚れしちゃった母と番いたくて、海で遭難していた母を無人島に囲って助ける契約を持ちかけて、脅したり無知を装ったりして取り引きして、番うまで持って行ったんですって」
そう言ったアキは笑っていた。其れに嫌悪感は無いらしい。
「え?お母さんは、それで良かったの?」
「あはははは!愛しちゃったら仕方ないんだって!騙す様な事されてるし、初めは嫌で仕方なかったらしいけど」
大きく口を開けるアキの犬歯と奥歯は、人間より鋭く尖っていた。その姿は正にヴィラネスだった。
「騙して、言い寄ったって事?」
訝しむような監督生にアキは理解出来ないとばかりに首を傾げた。
「え?それの何がいけないの?別に良いでしょう?母は幸せにしてる。私含めて四人の稚魚も産んで、未だにラブラブ!ああ、この状態に何の問題が?」
その話に、カレッジの生徒は全く問題が無いと感じていた。唯一、監督生を除いて。
「でも、そんなのって…」
「…んー、価値観が違うって事で、気にしない方が良いわよ。結局、母は故郷を捨てた。人魚になるって言ったらしいけど、父が許さなくて、ずっと無人島で囲われてるけどね」
そう言い切って、ご馳走様!と言いアキは立ち上がった。
「ああ、待って下さい!アキさん、詳しく話が聞きたいのですが」
アズールの引き止める声に、お皿を片付けて来るからとそのまま去った背中を見ながら、オクタヴィネル寮生は声を潜めて何なら海の言葉すら使って囁き合っていた。
戻ったアキの話が監督生も同級生達も気になるらしく、その場には先程と変わらないメンバーが居た。
「何が聞きたいんですか?」
「貴方は今はその姿ですが、どちら寄りなんです?」
「ああ、私さー、気を抜いて海水に入ると足が尾鰭になっちゃうんだよね。陸に上がって真水で洗えば足になる。でもね、人の姿になると一週間くらい身体中が痛いし歩いたら足がナイフで刺してるみたいに痛いけど、人魚になる時は何とも無いから、人魚寄りだと思うな。泣いても水は出ないし。」
「ほう、それは貴方の父君もでしょうか?」
「いや、父は完全に人魚だから海の魔女の魔法でなら人間になれるらしいけど、死ぬ確率が高いんだって。だから、母が愛する人を失うくらいなら私が人魚になるって言ってやめさせたんですって。どちらも同じくらい危険らしい。だから母は人間のまま、孤島で私達を産んで、私達は殆どを海の中で育った。母さんが寂しく無い様に、代わる代わる島で過ごして、海の中では父さんに生きる術を教わって……きっと母さんは父さんより早く死ぬから、私達は父さんを支えてあげなくちゃいけないって思ってた。」
「ああ、人間とは寿命が違いますからね」
「そうね。父さんは百歳くらいだったけど、母さんは二十代だった……でも、あんな環境だから、きっと母さんは早死にする。父さんはあと最低二百は生きるけど、母さんは二、三十年でしょうから……そうなったら父さん悲しむ……だからね、帰る時は此処の永久人魚化薬を持って行きたいの。ここの人魚化薬は安全性が高いから。私がここに来たのはきっとその為。」
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