サバナクローに入った人間
眠っていた。ドアを開けられて起こされる。そこは西洋ホラーチックな場所で、そこかしこに浮く棺桶にハッと自分のいる場所がわからなくなる。大勢の同じ格好の人と共に仮面の男に連れられて鏡のある間に行った。
闇の鏡と言うらしい。完全なる悪そうなヤツらのアイテムじゃん、とアキが思ったのは間違いでは無い。

いつの間にか着ていた派手なローブでは、どうやら小さくなっているFカップの乳房も女性らしいヒップの丸みも隠せていない。それ故に、女だと見れば分かったのに学園長クロウリーは誰にも口を挟ませずに、鏡の前に突き出した。アキは「先程から意味が分からないのですが?国に帰して下さい。っく…人の話を聞いて!」と抵抗していた。意味分かんねえのはクロウリー以外全ての生徒も同じだった。

“汝の名を答えよ”

「え?…アキ・タバサキ」

“汝の魂の形を見せよ”

「は?なん!?」

“汝の魂の形はサバナクローが相応しい”

サバナクローが相応しい

その鏡の言葉にサバナクローこそ驚いていた。

「おい、クロウリー。今年から共学になったのか?」
サバナクローの寮長であるレオナ・キングスカラーが真っ先に衝撃から立ち直って口を開いた。
「いいえ?何を言っているのです?」

「っ?!…私の何処を見たら男の人に見えるの?」
アキがボディラインを強調する様に胸を張り、腰に手を当ててウエストを捻った。
「え?あ!…コホン…」
メリハリのある女の体を漸く目に入れたクロウリーは慌てて咳払いをした。

「分かって頂けたなら帰して下さい。家族が…いや…」
心配してる、探している筈とは言い切れずに言い淀んでしまうが、どうでも良いと思い直した。
「家族が何ですって?」

「両親と弟妹達ですよ…其れとも何か?貴方が仕送りして下さるの?」

「…帰る場所を思い浮かべて、鏡の前に立って下さい」
仕送りと言ってやれば、クロウリーは帰そうと思い直したらしい。面倒になったなと分かる。けれど今すぐに帰れるのなら未だ何とかなるだろうと、言われたままに鏡へ向かった。
鏡は一瞬の沈黙の後にとんでもない事を伝えてきた。

“無い…帰るべき場所は、何処にも存在しない”

「どう言う…世界が違うとでも言うの?そんな小説みたいな事…」
特に二次創作とかで良く読んだけれども自身が、知らない世界に飛ばされる何て正直勘弁して欲しい。
「違う世界から来たと言うなら納得ですねえ」
「この鏡は割るべきではないの?こんな性別も世界すら間違える鏡…私限りとは思えないわ。割ろう、それが良いわ…」
呑気なクロウリーの声に苛立ち、鏡へ向かおうとしたがクロウリーに羽交い締めにされた。
「ああ!ダメです!そんな事は出来ません!何より帰れなくなるんですよ!」
帰れないと言う事はもう言われたじゃあないか、と可笑しくなって力を抜いた。
「既にこの鏡では私の故郷には繋がらないと分かったので、次なる被害者が現れぬ様にするのが一番でしょう?」

「え?帰りたくないんですか?」

「はあ…もうどうでも良いわ。ねえ、私の処遇を決めてくれる?」
どうせ家族は私を探しはしない。後継ぎでも無い女など必要無いのだから。仕送りが欲しくは有るだろうけど。

「サバナクローなんだろ、来い」
最初に口を開いた褐色肌をした長身の男に声を掛けられた。
「ええ、ちょっとお待ちになってね。…ああ、クロウリー学園長だったかしら?貴方、ちゃあんと私が生きていける程度の支援はして下さるわよねえ?」
そうニッコリ笑って言えば、クロウリーは少し慌てたままに頷いた。
「ええ、勿論です。女性には優しくして当然です。」
優しくして当然だと言う台詞に、ゾワゾワと寒気がして身震いしてしまった。私の世界とは違う価値観の世界なのだろうか?男性に優しくされたら怖いと思ってしまうのは自身の経験故か。
「へえ、そう?でも私、そう言う「女に優しい」何て甘言を吐く男は信用しない事にしているの。行動で示して下さいませ?」
女に優しいという言葉を甘言だと捉えた事に、クロウリーだけでは無くその場の全ての者が、驚愕に固まっているとは知らなかった私は、サバナクロー寮生の居る方へと向かった。

「あら、私の希望は以上よ?さ、進めて?」

そう言って漸く生徒は寮へ移動する事になった。

***
2020/08/03
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