サバナクローに入った人間 2
男に産まれていればねえ。女にして置くのが勿体無いな。お前の死んだ兄さんにそっくりだ。
比べないで、私の知らない兄となんて。
女じゃあダメなの?
だったら、どうして私は男に産まれなかったの?
女だから必要無い。後継ぎになれない女なのに、あんなに出来が良いなんて勿体無い。
どれだけ努力しようと、私は私として認めては貰えなかった。
いつも知らない兄の影として見られた。
この世は無情だ。
産まれた時から決まっているもので全てを決められて、比較される。
私にはどうしようも無い性別と言うもので勝手に失望され続ける。
どうして私は女なの?
可愛いものだって好きだった。他の子と違ってピンクを好まなかっただけで、男の子みたいだよね、と言われて、せめて女でいたいと伸ばした髪は、高校卒業する時に鬱陶しいからと短くされた。
女の子で居たかった。唯一の許された事はD社などのアニメ映画を観る事だけ。それもプリンセスに憧れていると思われてなど居なかった。スカートは制服だけで私服は男物ばかりだった。
そのくせ、私を女子校へ放り込んで何の意味があったのだろうか。私は周りが羨ましかった。
否定し続けた女らしさは、だんだんと隠せなくなって、高校生の時には既にFカップだった大きな胸が嫌だった。
いつしか生理はほとんど来なくなっていた。
世界は無情だ。
***
夢を見ていた。どうせいつもの夢だと分かる自己嫌悪感に、しばらくぼんやりしていた。
このサバナクローは殆どがケモ耳ケモ尻尾でムキムキ筋肉と言う、私の性癖に刺さる寮生ばかりだった。モフモフ、揺れる尻尾、ピクピク動く耳、良い具合に鍛えられた筋肉。全てにキュンとした。
可愛くて可愛くて堪らないのだ。
オクタヴィネル寮生の殆どが人魚だと聞いた時は、機会さえあれば人魚姿を拝みたいと思った。ディアソムニア寮生に妖精の血を引くものが多いと知った時だって胸が高鳴った。そしてイグニハイド寮生の半数が嘆きの島と言う、ほぼ冥界な場所の出身だと聞いて、一番好きなギリシャ神話のハデス様の信仰が有るのかなと、同士が居たら良いのにと期待した。
そして、グレートセブンと呼ばれる各寮の象徴でもある過去の偉人達の像を見て、私は絶句した。
D社作品の中のヴィランズ達の像だったのだ。特に好きなヴィランズであるハデス様とスカー、アースラ、マレフィセントの姿をじっくり眺めた。そして各寮が確かにそんな雰囲気だなと思い、イグニハイドへの興味が増した。
***
勉強はは思いの外、ついて行けている。唯一の悩みはこの世界の一般常識が無いと言う事だけだった。同じクラスの誰かに教えて貰えれば良いな思って、クラスメイトを思い浮かべるが、どうにも遠巻きにされている感が拭えない。同じサバナクローのーーつまりは獣人のーー常識なら確りと教えて貰った。けれど人間の常識も知るべきだろうと思っていた。クラスで隣に座っても逃げないのはサバナクローとディアソムニア、オクタヴィネルだけだと気付いていた。イグニハイドは即座に逃げるから、ちょっと残念。
まあ、彼等についての常識を学ぶのも悪くは無いだろうと、右隣席のオクタヴィネル寮生のシャチの人魚と左隣のツノが生えたディアソムニア寮生にその旨を伝えれば、後日開いた勉強会にて、人魚の世界の常識や日常を教えて貰えた。代わりにと私の世界の人魚について聞かれたから、八尾比丘尼伝説以外のマイルドな人魚系の伝説をマイルドに教えておいた。流石に魚は良いとしても、同族を食う話は聞きたく無いだろうから。後は、美味しい魚料理、肉料理ついても色々話した。こっちも結構好評で、幾つかはレシピをメモしてあげた。サバナクローでは好評なレシピでもあると言えば、2人ともに楽しみだと言ってもらえて嬉しかった。まあ、サバナクローの場合は肉料理の方が好きな奴の方が多い。草食獣系と魚好きを除けばね。
ディアソムニア寮生には妖精の話、かつて存在したドラゴンについて話をメインに教えてもらって、代わりに元の世界の妖精やドラゴンの事を伝説を交えて教えた。とても興味を持って貰えて、ドラゴンと言うより、自国の龍に対する考え方や干支についての話の時に、自身が辰年の生まれであると言った時のディアソムニア寮生の喜び様は凄かった。
***
デルピオン・オルカヌスはシャチの人魚だ。シャチは好奇心が旺盛で、家族愛に溢れている。ちなみに完全なる女性社会であり、オスもメスも同じ群れからは滅多に離れない。其れは人魚でも殆ど同じだ。だから、女性であるアキにも彼なりに気を遣うようにしていた。
席に着けば、同じ人間である学友達はそそくさと離れて行く。それを寂しそうな目で一瞬だけ見て、諦めた様に教科書に目線を戻す姿を良く見た。一人だけの女の子と言う存在に、気後れしているのだろうが、褒められた行為では無い。
反対隣の同じ寮生を見れば、呆れた様に先程離れた人間を見て鼻で笑って小さく海の言葉で「女の子への気遣いが足りない」と呟いていた。「言えてる」そう同じ様に返せば「彼女はいつも同族に避けられて…可哀想にな」と呟いた。だから片方だけでもと俺は此処に座った。
そんな彼女の隣に、教室に入って来たマレウス・ドラコニアが座った。
ドラコニア方を見た彼女が「おはよう御座います」と言ったのが聞こえた。当然だった。俺は隣で、未だ教師は居ないのにドラコニアの出現でシンと静かになっていたからだ。
「ああ、おはよう」
***
2020/08/07
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