私の世界は… 3
オクタヴィネルのモストロ・ラウンジでのバイトは好調で、生活費にちょっと余裕が出始めた。最低限のスキンケアと日焼け止めだけだった日々を抜け出したくて、やっと化粧品をMr.Sの店でカタログ片手に注文した。
そのワクワクが久しぶりの生理を呼び、久しぶりの出番だった月経カップと、少しずつ縫った念の為の布ナプキンの出番が来た。腰も腹も痛いが、チョコレートもカフェインもミルクも絶って、保健室で頭痛だと偽り、痛み止めを貰ってしのいだ。其れも終われば、楽しみだったお化粧品の届く日だ。
化粧品を受け取り、オンボロ寮に帰り、早速鏡の前に其れ等を広げて眺めた。しばらく眺めて、久しぶりのお化粧をした。グリムに「良いんじゃねえか」と言われて嬉しくて思わず思い浮かんだ歌を歌った。
ありのままの姿見せるのよ!
オンボロ寮の中でクルクルとグリムと回ってみたりしながら、嬉しさが溢れて心のままに歌っていた。
オンボロ寮のゴースト達も一緒になって古惚けた廊下を駆けてドアを出た。
ありのままで 飛び出してみるの
降り積もった雪の上を、グリムを抱いて歩きながら口に出す歌からは喜びが溢れていた。
女の子としての自分をはっきり出せる、お化粧と言う手段と楽しみを得たから飛びたした歌だ。
くるりと回りながら、歌う姿はアキは気付いて居ないけれどキラキラと輝きを放っていた。
輝いていたい もう決めたの
心のままに歌う姿は確かにプリンセスの様だった。
「ふふ、グリム!私、明日からお化粧して行くよ。この世界は男の子もお化粧してるから、女がスッピンって言うのは恥ずかしかったんだあ…コレで少しは女の子らしく出来るから嬉しいなあ」
「お前は今までも、ちゃんと女の子だったんだぞ!」
其れは単に、男の子だった事は無いと言うだけの単純な事を言っただけだったけれど、アキにはとても嬉しくて、ぎゅうっとグリムと抱き締めた。
「えへへ、嬉しいよ、グリム!バイトのおかげでツナ缶の頻度も増やしてあげられるんだよ!嬉しいねー!」
「ふなあ!良いのか!俺様も嬉しいんだぞ!」
「ふふふ、ラギー先輩とアズール先輩に感謝しようねー、この世界の身分証すら無い私の働き先としては破格なんだからね?」
「そうなのか?」
「うん!だってね、まともな働き先は無いんだ…どの世界でもそう…女を売るしか無いのよ…其れを今はしなくて良いんだもの。でも覚悟はしなきゃ…此処を出たら私には私と言う担保しか無いんだから」
「良く分かんねえけど、俺様はツナ缶が有ればなんでも良いんだぞ」
「うん、グリムはそれで良いよ。さ、帰って夕飯食べようか」
「今日はツナ缶沢山なんだぞ!」
「そうそう良く覚えてたね」
仲良く話しながらオンボロ寮へ戻る後ろ姿を見ている影が幾つか在ったがアキもグリムも気付く事は無かった。
***
レオナ・キングスカラーとラギー・ブッチ、ジャック・ハウル等のサバナクロー生はアキが女の子だと気付いていた。別に生理中の臭いとか関係無く、女の子のフェロモンくらいは嗅ぎ取れるのだ。でも、わざわざ胸も何かで潰している上に化粧もせずにいるのだから、女の子である事を隠して居るのだろうと思っていた。
だから、ジャックにアキが着るものとベッドシーツに困って居るから捨てるヤツで良いから欲しいと言えば、もう少し着ようかなと思っていた体育着や制服やちょっとほつれた程度のベッドシーツが集まった。その中から状態がマシな物が選ばれてアキに渡されると、喜んでいた、と渡したジャックからの報告に寮生はホッとしたのだ。
其れから起きた各寮の事件の中で、サバナクローでの出来事とオクタヴィネルの出来事で関わった時に、ラギーよりも小さな体で、魔法が使えないからと、自分の身体一つで駆け回り、オーバーブロットしたレオナにも怯まず殴り掛かった姿に、強い女は良い女でも有る獣人達からの好感度は高かった。そもそも獣人は女を大事にするし、レオナの国では女性をとても大切に優しく扱う。
ライオンは狩りをメスが行い、ハイエナの群れのボスはメスだし、オオカミは愛する番をとても大切にしあう。
そんな彼らは、歌うアキを木の影から見て聞いていた。
此れからは女だと隠さないつもりらしいと知った。だったら、きちんと女性として女の子として扱える。
サバナクローに入り浸っているのも、好きなだけ居て良いと思っていたし、ジャックが聞いた喘息の話以降は、此処の環境がアキの助けになるなら、もっと居ても良いのにと思って居たのだから。
だから、春を鬻ぐ事すら覚悟している物言いに、レオナもラギーもジャックも耳を疑った。
ーーーだったら、俺のところに……。
***
2020/08/06
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