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私がおはようと言えばおはようと返ってくる。それが嬉しくてこの三日間私の機嫌は上がりっぱなしだ。クラスメイトや部活仲間だったら毎日こうなのだろうか、なんてありもしない想像をしてみる。きっとそれでも私は勇気を出せずに俯いていることだろう。でも私は、ただの同級生という関係で牛島君からもらえた。おはようの言葉を。

私は上機嫌で廊下を歩いた。隣のクラスなのだから牛島君とすれ違えるかもしれない。ちなみにそうなった場合、また挨拶をする度胸はない。牛島君とすれ違えなかったことを残念に思いながら教室へ入ろうとした時、いきなり両肩を掴まれた。

「だーれだ」
「て、天童君」

私は後ろを振り返りながら答える。そもそも、これは目を隠してやるものではないだろうか。そこはまだ付き合いの浅い私への天童君なりの遠慮なのかもしれない。

「正解!」

天童君は両手を離し、私の目の前に回り込む。タダで私を教室に入らせてくれる気はないらしい。

「な、何の用かな……」

私がどもりながら言うと、天童君は満面の笑みを浮かべてみせた。

「若利君とデート、行きたくない?」
「へ?」

思わず目を丸くした私に天童君は顔を近付ける。

「だから、デート。」

その六文字が頭の中を駆け巡る。私と牛島君がデート。果たしてそれは行ってもいいものなのだろうか。デートとは恋人同士がするもののはずだ。私と牛島君は、ただの同級生。いや、この間バレーを教えてもらった間柄? 少しは近付けたと思ったけれど、逆に迷惑がられているかもしれない。仲良くなったと思っているのは私だけ? こうなることを予想していたのか、天童君は楽しくてたまらないとばかりに笑っていた。いつも思っていることだが、牛島君と仲が良くて羨ましい。

「若利君は放課後校門に待たせてあるから。ちゃんと若利君の息抜きもさせてあげてね。んじゃ」

天童君は嵐のように去って行った。残された私は一人立ち尽くして、目の前にある事実を受け止めようとしていた。今日の放課後、私は牛島君とデートする。

理解した瞬間叫びだしそうになった。天童君は何でもっと早く教えてくれないのだろう。そうしたら綺麗なワイシャツを着てくるし、髪ももっと可愛くして、化粧だってしたい。私なんかが恐れ多いと断る選択肢もあるけれど、天童君の言い方からして私が行かなければ牛島君は待ちぼうけを食らうだろう。

これはもう、覚悟を決めるしかない。私は今日牛島君とのデートに行く。
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