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いざそう決めてしまうと、逆に放課後までの時間が辛かった。いっそのこと一思いに殺されたい。私は死刑執行を待つ罪人のような気持ちで忙しなく時計を見た。牛島君は今頃何をしているだろうか。きっと私のことなど頭の隅にもないだろう。バレーのことも考えず、きちんと授業に集中しているに違いない。それが一番効率がいいのだから。

私は放課後に備えて五分おきに時計を見た。そして六限終了のチャイムが鳴った途端、教室を飛び出した。幸い今日は誰とも約束をしていない。いくつかの好奇の視線を受けながら私は走り、校門前に辿り着いた。よかった。牛島君はまだいない。牛島君を待たせるなどあってはならない。
私が呼吸を整えている時、唐突に後ろから声がした。

「おい」
「はいっ⁉」

振り向かずともわかった。私のように急がずとも、牛島君はその長い脚ですぐに辿り着けてしまうのである。

「何故お前がここにいる」

改めて向き合うと、やはり牛島君の威圧感は凄まじい。背が高いとは素晴らしいことだ。それよりも彼は、天童君から聞いていないのだろうか。

「あの、天童君から放課後ここに牛島君がいるって聞いて…」

私は回らない頭で事実のみを答えた。しかし、直後に訪れた沈黙で失敗したことを悟った。これでは牛島君のストーカーみたいだ。実際部活風景を勝手に覗いていた前科があるから否定はできないけれど、今この空気は耐えがたい。だけれど正直にデートしに来ましたなんて言ったら今度こそ気持ちの悪いストーカー女確定だろう。何しろ私は一度、牛島君に振られている。
しばらく気まずい空気を二人で分け合っていると、牛島君は大きくため息を吐いた。

「天童の考えそうなことだ。行くぞ」
「え?」

牛島君は背中を向けて歩き出した。校門に突っ立ったまま混乱している私にはお構いなしだ。もしかして私は今、デートを許可されているのだろうか。ならば私はそのチャンスにしがみつきたい。

私は走り出すと牛島君の横に並んだ。そして半歩後ろを歩いた。隣を歩く勇気はまだない。牛島君は一瞬だけこちらを見ると、また変わらないペースで歩いた。牛島君について新しく知ったこと一つ目、牛島君は歩くのが速い。


十分程歩いて辿り着いた先はスポーツショップだった。牛島君らしくはあるが、初デート場所としてはどうなのだろう。中に入るのも躊躇われ入口で待ちながら私は考える。そもそも牛島君は、これをデートとして認識しているのだろうか。天童君と牛島君の様子からしてそうは考えられない。きっと「買い物に行く前に校門で待ってみて」とか「校門で待ってる人がいるよ」とでも言ったのだろう。律儀な牛島君はそれに従い、私と鉢合わせてしまった。なんと不運なのだろう。私はスポーツショップのガラスに映った自分を眺めた。

店の前でひたすらに店内を眺める私はまるで不審者だ。でも私はこの中には入れない。牛島君の中でバレーは、とても神聖なものだと思うから。

俯いた私の頭に天童君の言葉が蘇った。

“ちゃんと若利君の息抜きもさせてあげてね。んじゃ” 

私にとってはただの放課後でも牛島君にとっては貴重なオフだ。それを私なんかが使っていいのかはわからないけれど、こうなったら楽しい思いをしてほしい。

「牛島君、行きたいところある?」

ちょうどスポーツショップから出てきた牛島君に私は悠然と立ち向かった。
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