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「行かないが」

返ってきたのは、あまりにも予想通りすぎる答えだった。今までの私なら「そ、そうだよね」と引き下がっていたところだろう。だが、今の私には崇高な目的がある。そう、牛島君を楽しませてあげたい。

「牛島君シャーペンの芯とかなくなってない!? ほら、あそこに雑貨屋さんあるよ!?」

我ながら苦しすぎると思うが、運は私に味方した。なんと牛島君は本当にシャープペンの芯を切らしていたのだ。他にも消しゴムが切れかけている。何故ここまで詳細にわかるかというと、現在牛島君が目の前でペンケースを開いているからだ。

「私も見たいものあったんだよね! 行こう!」

私は半ば無理やり牛島君を引っ張って、ショッピングモールの中の有名雑貨店へ移動した。

女の子ウケするようなファンシーな店柄ではなく、男女共に使えるようなデザインのものが多いのが幸いだろう。189センチの牛島君もなんとか浮くことなく店に入ることができた。

そして早速シャープペンの替え芯と消しゴムを手に会計へ向かおうとする牛島君の腕を私は掴む。

「いやいやいや」
「何だ」

予想はしていたが、あまりにも早すぎる。牛島君は絶対に迷わず目的の品だけを手に取って買うタイプだ。ついでに何かを見るとかは絶対にしないタイプだ。牛島君を長らく見てきた者として勘付いてはいた。しかし、いつも通り買われてはデートではない。

「これはなめらかさ重視だって。あ、こっちの消しゴムは消しカスが散らばらないみたい。試し書きもできるよ」

私はあちらこちらのシャープペンや消しゴムを手に牛島君にプレゼンした。少しでも長く、この買い物の時間を伸ばしたい。

「俺は毎回同じものしか使わない」
「たまには変えてみるのもいいかもよ?」

私と牛島君の視線がぶつかり合う。少し前なら心臓が口から飛び出してしまいそうなこの状況も今ではなんてことない。早く会計をしたい牛島君と、牛島君を引き止めたい私。その攻防は続いた。しかし最後には牛島君が折れることとなった。

「……そこまで言うのなら使ってやる」

ため息を吐いて私の勧めていたシャープペンの替え芯を手にする。あの牛島君が私の提案を受け入れてくれた、と喜んでいたのも束の間、「ただし」と牛島君の低い声が響き渡った。

「使い勝手が悪かった場合はお前に引き取ってもらうからな」

牛島君は私を一瞥した後今度こそ会計へ向かった。残された私は、文房具売り場で一人立ち尽くす。もし牛島君が気に入らなかったら、その残りは私が責任を持って使う。そんなのご褒美でしかない。私は駆け出したい気持ちを抑えて雑貨屋の出口へと向かった。
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