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「なんだかお腹空いたね!」
私がそう言ったのは不自然ではないだろう。勿論これは牛島君を引き止め、デートを続行するためではあるのだが、現に放課後とは多くの生徒が買い食いをするおやつの時間帯だ。
「今日は部活がないから腹は減らない。栄養バランスが崩れるし、夕飯が入らなくなっても困る」
私の目論見は、物の見事に牛島君に撃破されてしまった。牛島君は無意識だろうが、バレーを出されると私はとても弱い。何故なら、私は牛島君がバレーを大事にしていることを知っているからだ。
「でもさ、ちょっと甘いもの食べたいなとか、思わない?」
「思わない」
取りつく島もないというのはこのことを言うのだろう。斜め前にクレープ屋を捉えながらも私はがっくりと項垂れた。先程雑貨屋では牛島君が譲歩してくれたのだ。今度は私が譲るべきだろうか。そんなことを考えていた時、牛島君がクレープ屋を指差して言った。
「そんなに食いたいなら食っていけばいいだろう」
「あ、はい……」
牛島君にとってこれがデートという認識はない。俺は先に帰るからお前は一人で食ってろ、という意味だろう。泣きたい気持ちでクレープ屋へ向かうと、何故か牛島君もついてきた。
「あの……?」
「だから俺は食わないぞ」
そう言いながらも私の後ろをついてくれるのは、まだ私と一緒にいてくれる気があるのだろうか。無駄なことはしない牛島君にこんなことをされたら、私はまたいいように解釈してしまう。でもこの場合はいいんだろうか。牛島君はまだ私と一緒にいてくれると思って、いいんだろうか。
その疑問は私がレジに並んだ時点で解決した。牛島君は丸く愛らしい椅子に座り、私達のテーブルを取ってくれていたのだ。私は奮発してチョコレートアイスのティラミス載せを注文した。席に着いた瞬間牛島君に顔を顰められたがそんなことは気にならない。牛島君が、私のためにクレープ屋に居てくれている。そのことが嬉しくて、私はわざと時間をかけてクレープを食べた。牛島君には大変申し訳ない。だが牛島君に下品な女だと思われないようこぼしたりせずに綺麗に食べたことは褒めてほしい。
私が牛島君にこれだけ沢山の感情を抱いていることなど、きっと目の前の牛島君は知らないのだろう。「美味いか」だとかそんな会話すらないけれど、私は十分に楽しいデートだった。散々連れ回したのだ。後はもう帰るだけだ。
クレープの包装紙をゴミ箱へ捨てると、私は既に立ち上がっている牛島君の隣に並んだ。
「帰ろうか」
「ああ」
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