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帰り道、私は自然と牛島君の隣を歩いていた。行きに半歩後ろを歩いていたのが嘘のようだ。だがこの数時間であれだけ振り回したのだから、もうこれくらいなんともないのかもしれない。牛島君には申し訳ないところもあったけど、これが牛島君の息抜きになったのなら本望だ。

「牛島君、今日一日楽しかった?」

私は恐れることなく聞いた。そして牛島君が答える前に私は続ける。

「私は楽しかったよ。牛島君といれて、すごく嬉しかった」

まるで小学生の感想のようだが、それが素直な気持ちだ。牛島君の方を見ると、彼は少し押し黙った後口を開いた。

「……お前が楽しかったならよかった。一応これは、デートらしいからな」
「へっ!?」

思わず間抜けな声が出る。牛島君は、今何と言ったのだろうか。デート? 牛島君は、私とデートをした気でいたのだろうか。頭の中で今日の牛島君の行動が薄らと繋がって行く。

「天童にデートに行って楽しんでこいと言われた」
「あ、そうなんだ……」

確かに牛島君はデートでもないと自分は食べないクレープ屋になんて寄らないだろうし、愛用のシャープペンの芯を譲ることもしないだろう。すごくどうでもいいことに思えるが、彼はそういう人間だ。

牛島君は、今日一日私とデートをした気でいた。認識した瞬間に、火が付いたように顔が赤くなるのを感じた。今日私は女の子として見てもらっていたのだ。デートと思っていたのは、私だけではなかった。混乱する頭の奥で天童君に感謝を捧げた。でもできれば事前に牛島君にもデートと伝えたと教えておいてほしかった。なんてわがまますぎるだろうか。

「それにしても」
「はいっ!?」

牛島君から話し出すことは少ない。突然の言葉に驚きながらも牛島君を見ると、彼は笑っていた。笑っていた? 私はとっくに容量を超えた頭が思考を停止するのを感じた。

「いつも俺の前では萎縮してばかりだが、今日は俺にも普通だったな」
「あ……」

確かに牛島君の前では緊張して吃ってばかりいたが、今日は強気でいた。牛島君は普段からそれを感じ取っていたのだ。いざ知らされると、どことなく罪悪感が湧いてくる。

「うん、ごめん」

はい、と言おうとしていたのを変え、普通の同級生と接するように牛島君と話す。振られた相手なのだから接しづらくて当たり前と思っていたけれど、それでも近付こうとしていたのは自分ではないか。牛島君を怖れるような態度を取っているくせに友達になろうだなんて、失礼もいいところだろう。

「別にいい」

牛島君はそう言うと視線を前へ戻した。

「だが、今日は楽しかった」
「……うん」

その後の寮までの道を、二人でとりとめのない話をしながら歩いた。
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