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今日も体育館は全て点検らしい。従って、体育館部活は外周などのメニューを行うかオフになる。男子バレー部は外周と筋トレを行なって今日は解散。情報をくれた同じクラスのバレー部の吉田君に感謝をして、私は放課後牛島君のクラスへ走り出した。とにかく行動の早い牛島君のことだ。早く行かないと部活を始められてしまう。そうなったら私にはもう近付く勇気はない。
廊下の奥に一際目立つ後ろ姿を見つけ、私は夢中で叫んだ。

「牛島君!」

放課後まもない廊下だ。人の往来は激しいが、それでも私の声は届いたらしい。悠然と振り向く姿にまた心が躍る。

「何だ」

私は小走りで牛島君に近付いた。流石にこれから言うことを同級生の前で大声で告げる勇気はない。けれど、前のように怯えて誰もいないタイミングを見計らう必要もない。私は真っ直ぐに牛島君の顔を見据えて言った。

「苗字名前です。あなたのことが好きです」

周りをすれ違う同級生が何人か驚いてこちらを見る。私も牛島君もそれに気を留めたりしない。私の本気は、確かに牛島君に伝わったようだった。

「……知っている」

牛島君が真剣な顔でそう言うので、私も真剣に頷いた。

「うん。それだけ。引き止めてごめんね」

私は牛島君の行き先とは逆方向に走り出した。周りに知られようがいい。牛島君に交際の申し込みをしなくともいい。あの時名前さえ知ってもらえなかった私は、今この返事を貰えた。ここが私のスタートラインだ。
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