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いつものように、という言葉が出てくる自分に呆れつつも部室の窓から体育館を見ていると、不意に天童君がこちらを向いた。そのまま手を動かし、こっちへ来いというジェスチャーをする。これは間違いなく私へ向けられたものだろう。先日天童君に言われたことを思い出しながらそう確信すると、私は後輩に一言告げて部室を出た。うちの部は本当に緩い。
「おっ! 来た来た!」
私がいつもの体育館へ行くと、天童君は笑顔で私を迎えてくれた。どうやら本当に私で合っていたらしい。しかし、天童君が私に一体何の用だろうか。それも部活中に呼び出すほどの。まあ私の方は一向に構わないのだけれど、なんて考えていた時、重みのある足音がこちらへ近付いた。
「苗字」
「う、牛島君……」
自然と私と牛島君は向かい合う形になる。こうして顔を合わせるのは告白したあの時以来だ。何であの日はあんなに落ち着いていられたのだろうと思うほどに今私の心臓はうるさい。近くに来ると牛島君は本当に背が高い。それから、格好いい。
すっかり牛島君に夢中になっていた私は、牛島君から発せられた言葉の意味を理解できないでいた。
「リレー?」
ただ言葉を復唱する私がどんな状態か察しが付いたのだろう、天童君が笑いながら補足する。
「そ。今度体育祭あるっしょ? その部活動対抗リレーにうちの部も出なきゃいけなくて、まあそれは別にいいんだけど、問題は女マネを一人出さなきゃいけないんだよね」
「女子……」
男子バレー部では一度も見たことのない存在だった。運動部では女子のマネージャーが付いているのが常だ。だが噂で聞いたことがある。男子バレー部は本気で全国を狙うため、余計な恋愛ごとや面倒ごとを避けるために女子マネージャーは入れていないのだと。その代わりに男子のマネージャーを募集するか、怪我をした選手や選手を諦めた者がマネージャーに徹している。確かに他の部においてマネージャーと選手でカップルが成立した例も少なからずあった。
「で、その臨時マネを名前ちゃんにやってほしいんだよね」
「私!?」
何故私が、と思うもこの場にいる面々を見て察する。天童君達一軍メンバーは、私が体育館を借りたことによって三十分練習時間を減らされたメンバーなのだ。つまり私は、この人達に借りがある。
「臨時マネージャーって言っても本当に体育祭で走ってくれるだけでいいからさ」
いつものように優しくフォローをくれる瀬見君。そして、
「頼む」
私の目の前で私を見据える牛島君。こんなことをされたら、私にもう断る余地はない。
「……やります」
思わず口走った私の横で、「これで一件落着ですね」と白布君が呟くのが聞こえた。
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