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「おーい! 名前ちゃーん!」
「あ、はい! 今行きます!」
天童君の叫び声に私は慌てて立ち上がった。天童君が私を教室の出入り口で呼ぶときは大抵がバレー部関係なので、自然と私の体に緊張が走る。そもそも、天童君とバレー部以外の話をしたことなどないのだが。そのバレー部関係の話というのは殆ど牛島君の話であるのには見て見ぬふりをする。教室の隅で「そっか、苗字リレーやってくれるんだよな」と言う吉田君に頷いて、私は出入り口へと急いだ。
「リレーの順番決まったよん」
「本当!?」
「って言っても、名前ちゃんはマネージャー枠だから最初から走る順番決まってっけど」
天童君が見せてくれた紙には寺島、神田、明石と知らない名前が続く。すっかり男子バレー部のことを知った気になっていたが、そういえば私が知るのはあの体育館を使う選抜メンバーだけだった。私の走る順番はマネージャー特別枠なので最後から二番目だ。それだけ確認して用紙を天童君へ返そうとしたとき、私はとんでもないものを目にした。
「こ、これ……」
アンカー:牛島若利。その文字列を何度も瞳に映しては脳が情報過多だと拒否をする。思わず天童君を見上げれば彼は得意げに笑っていた。
「サプラーイズ! なんつって」
「なんつってじゃないでしょ!」
牛島君に私がバトンを渡すだなんて畏れ多すぎる。何故ここで牛島君なのだろうか。私の牛島君への想いはバレー部全員が知っているはずだ。冷やかしだとしたら大がかりすぎる。
すると私の考えを見透かしているかのように天童君が口を開いた。
「マネージャー枠は体育祭ルールだから問答無用で最後から二番目でしょ? うちにもあんのよ、主将は体育祭の部活リレーでラスト走るっていう問答無用が」
私は眩暈を起こしそうになりながらもそれを聞いていた。つまり、最後の私達二人だけは誰がどう言おうと変えられない。私がマネージャー枠を引き受けた時からこうなることは決まっていたのだ。私はもう一度男子バレー部の体育祭部活動対抗リレーメンバー表を見つめた。そこには顧問の先生がパソコンで打った字で、しっかりと「第九走者:苗字名前」と書いてある。目の前には満面の笑みを浮かべた天童君。後ろには私がリレーを走ると信じている吉田君。逃げ場はもうない。諦めて閉じた目の奥に、一瞬牛島君の顔が過った。彼もまた、私がリレーを走ることを信じている。
「……やるよ」
「ん?」
聞こえているだろうにわざと聞き返す天童君に向けて大きく、私は宣言した。
「やるよ、部活動対抗リレー!」
「そうこなくっちゃ!」
天童君は元の笑みに戻ると私に用紙を握らせた。
「んじゃ、よろしく頼むよ〜」
去ってゆく天童君の背中を見つめてしばらく、「苗字?」と不思議そうに話しかけてきた吉田君に私は同じ宣言をした。
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