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「えっ、告白した⁉」
「う、うん……」

翌日の学校で一連の出来事を話すと、友人は思いの外驚いていた。

「ビックリだわ、あの名前が」
「私も何で告白しちゃったんだろうって思う……」

幸か不幸か、元々関わりはないため今後に支障はない。だがここまでの現実を味わうくらいならただ夢を見ていた方がよかったと、今となっては思う。

「そりゃあフラれたら誰でも後悔するよ。それにしても牛島のフり方は酷いけど」
「他の人には言わないでよ!?」
「はいはい。秘密にするって」

この事を対外秘にするのは私の名誉のためだけではない。彼の名誉もかかっているのだ。学校で少なからず注目されている彼が、告白に「お前は誰だ」で返す男だと知れたらどうなってしまうだろう。恐らく女子からの評判はダダ下がりだ。それを防ぐためにも、この非常に心に沁みる――しかし彼のファンとしては少し萌える――出来事は私達の間で留めておかなければいけない。

決意を新たにした時、ふと教室の外を大きな影が通りかかった。まさに話題の人物、牛島若利だ。私は会話の途中であることも忘れ彼に見入った。やはり今日も格好いい。例え彼が、異性からの告白を「お前は誰だ」で返す人物であっても、だ。


彼の視界に入らないまま、少しだけ眺めていられれば。そう思っていたはずが、どうしてか彼は動かない。よく観察してみると、彼はこのクラスに用があるようだった。同じバレー部の人への伝言だろうか。とにかく困ってる彼を見ていられなくて、私はたまらずに声を掛けた。流石に昨日の今日で覚えられているかもしれない。しかし、名前も知らない私達は他人だ。

「あの、誰か呼ぶ?」
「……ああ、バレー部の、吉田を頼む」

牛島君は一瞬目を見開いた後そう発した。私に気付いたのだろう。普通に考えれば気まずい展開なのだろうが、彼と気まずくなれることすら私にとってはご褒美だった。何の接点もない私と牛島君は、このまま関わることなく学生生活を終えるはずだったのだ。

牛島君ご指名のクラスメイトを呼ぶと、私は興奮した心持ちで席に戻った。フラれた翌日だというのに何の因果だろうか。私と牛島君は早くも関わっている。これが告白する前ならよかったのにと思ったけれど、きっと告白する前なら関わることすらできなかっただろう。今の私は、もう何も失うものがない強みで行動しているのだ。名前も知らない人間を嫌うことはできない。そっと横目で出入り口を見ると、吉田君を話を終えたらしい牛島君と目が合った。次の瞬間、「ありがとう」と彼が口を動かしたのがわかった。それに笑顔で返し、私はまた前を向く。フラれた翌日だというのに、どうしてか心が躍る自分がいた。
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