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とは言っても、高校の体育祭は中学や小学校のそれとは違い緩いものである。クラスに割り振られた校庭の使用可能時間がせいぜい週に一回程度、後は本番でやるのみだ。部活動対抗リレーとなればさらに練習は当人任せとなる。陸上部のようにそれなりに気合を入れているところ、普段の練習のついでに形だけシミュレーションをするところ、一度だけ走ってみるところと部によって様々だ。そして我が(と言っていいのかはわからないが)バレー部と言えば、体育祭の存在など知らないかのようにバレーに没頭していた。

私の正直な感想としては、まあそうですよね、というところである。言わずもがな男子バレー部は全国常連の強豪であるし、部活に力を入れているこの白鳥沢の中でも格が違う。彼らにとってはお遊びのような体育祭よりも目前に迫ったインターハイの方が何倍も重要だろう。ぶっつけ本番も覚悟しておかなければいけないな、と私が内心思い始めたとき、唐突にバレー部の吉田君が私の前に現れて言った。

「今日リレーの練習。放課後第一体育館集合、つっても練習終わりにやるからかなり遅い時間になるけど苗字平気?」
「平気! 全然平気!」

ないと思っていたリレーの練習が遂に来た。それは嬉しくも、出来るだけ避けたくもある。勿論ぶっつけで本番を迎えるよりも練習ができる方が何倍も安心できるし、牛島君に久々に会えることは喜び以外の何物でもないのだが、私は牛島君にバトンを渡さなくてはならない。果たしてその大役を、余計な煩悩に囚われることなく成し遂げられるだろうか。


ちょうど私も部活がある日だったので、久々に真面目に部活をしながら時間が過ぎるのを待つ。と言っても私の緩い文化部と全国レベルのバレー部が終わる時間が同じであるはずがない。次々と部室を去る友人を見送ってから、私は所定の窓を覗き込んだ。バレていると知ってからなるべく控えるようにしていたこの行為だが、今日ばかりはいいだろう。夏の暑さも相まってか、バレー部は休憩時間以外も体育館の扉を開けてくれているので中の様子がよく見える。窓枠に顔を乗せながら、私は牛島君がいれば何時間でも眺めていられるんだろうなと思った。気付けば牛島君に初めて会話をしたあの日から数ヶ月が経った。あの時の私はまさか牛島君とバレーをして、デートをして、バトンを渡すことにまでなるだなんて夢にも思っていなかっただろう。それならまだ告白が成功した時のことを空想していそうだ。逆に言えばデートすらしたのに付き合うことはできないけれど、私と牛島君の距離はあの時よりきちんと縮まっている。ふと体育館からこちらを見上げて手を振った天童君に、私も緩く手を振り返した。
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