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部室に一つだけある掛け時計が六時四十五分を差した頃、私は体操着に着替えて第一体育館へ向かった。ここから第一体育館までは五分程かかる。体育会系では五分前行動が基本だ。さらに何かあった時のために五分余裕を見ておく。一分でも練習する時間の惜しいだろうバレー部の迷惑にならないようにと私なりに気を回したつもりだが、体育館に入った私を迎えたのは白い目線だった。
「……こんにちは」
無視だ。元々よく思われていないのは知っていたが、こうも露骨に嫌われていると心に来るものがある。私はこの場にいるもう一人の人物、白布君にもう一度声を掛けた。
「あの、他の人達は?」
「もうすぐ来る」
となると、白布君もリレーのメンバーなのだろうか。私は重大な事実を見過ごしていた。二回も自分のチームのキャプテンに告白する女がいたら疎ましく思うのも必然かもしれないが、白布君はその筆頭なのだ。
今度は無視せず答えてくれたことに安堵しつつも、他のみんなが来るまで白布君と二人きりのこの状況に私は酷く緊張していた。勿論恋愛的な意味ではない。しかし、場合によっては牛島君と二人きりでいる時よりも緊張しているかもしれない。
「おい」
「な、何!?」
その白布君に話しかけられ、私は吃りながら白布君を見た。すると威嚇するような目が私を捉える。
「あんた牛島さんに見られながらサーブして外しまくってたよな」
「は、はい……」
短い沈黙が私達の間に降りる。白布君の責めるような視線は止むことがない。私の背中に冷や汗が流れた。
「たかが体育祭のリレーとはいえ、白鳥沢の男子バレー部の名前を背負ってるからには本気でやる。だけどあんたじゃ不安がありすぎる」
私では相応しくないと、部のためにならないと言われているのだろうか。私は自然と下を向いた。運動神経は悪くもないが、特別良くもない。正直役立てるかと言えば微妙だ。さらには牛島君に特別な想いまである。白鳥沢のために今からでも代われと言われたら、私はそれに従うしかない。
次の瞬間私の頭上から降ってきた声に、私は思わず顔を上げた。
「だから、あんたも本気でやれ」
認めてくれているとは思わない。好かれているとも思わない。だけど白布君は、今この瞬間私を励ましてくれたのだろうか。いや、励ましてくれたというより尻を叩いたという方が近いかもしれないけれど。
「返事は」
目を丸くして白布君を見上げていた私は慌てて口を開いた。
「はい!」
すると、白布君は満足そうな顔をした、気がした。
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