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制服に着替えて外に出ると、生ぬるい夜風が私を包んだ。母に今日は遅くなると連絡を入れてあるが、早く帰るに越したことはない。急ぎ足で校門へ向かうと、その隣に佇む大きな人影を見つけた。

「牛島君……」

思わず声に出してしまったのは、私自身彼に話したいことがあったからだ。話したいこと、つまりは謝りたいことを胸に抱えたまま私は牛島君に近寄る。牛島君はまるで私を待っていたと言わんばかりの様子で私を見つめた。

「牛島君、少し話さない?」

緊張から私の声は震えていた。思えばこんなに積極的になったのは告白した日以来だ。牛島君だって自分に好意を寄せている女に誘われるのは嫌かもしれない。また恋愛ごとに巻き込まれるかもしれないと、そう思われても仕方ない行動をした。だが牛島君は静かに頷いて、「行くか」と歩き出したのだった。

寮への道もこの時間帯では人が少なく、先程一緒に練習をしていたバレー部の部員が小さく前方に見えるだけである。何物をも隠してくれるこの暗闇がどこか私を安心させてくれる。私は目を閉じ、また開け、目の前の暗闇を見ながら話し出した。

「今日は、迷惑をかけてごめんなさい」
「……ああ」
「本番では、絶対にあんなことがないようにするから」

すると牛島君は音を立ててこちらを振り向いた。暗闇の中でも視線が交わるのがわかる。そして二人立ち止まったまま、「頼んだ」と言った。それだけ言うとまた歩き出した牛島君の背中を、私は慌てて追いかけた。

ごめん、牛島君。それは今日やってしまったことへの謝罪でも、これからのことへの謝罪でもあった。私は今日抱えた牛島君への後ろめたさを、ずっと抱えることになるだろう。だって私は牛島君が好きだから。何をしていても牛島君を特別視しないなんてことは無理だから。

それでも、と私はコンクリートへ一歩踏み出した。それでも、体育祭の本番だけは絶対に本気でやる。牛島君を好きなことを忘れる。何なら体育祭一日のために牛島君を好きなこと自体を諦めたっていい。それが牛島君のためになるならば。

私は白布君の言葉を思い出していた。

――たかが体育祭のリレーとはいえ、白鳥沢の男子バレー部の名前を背負ってるからには本気でやる。だけどあんたじゃ不安がありすぎる
――だから、あんたも本気でやれ

私は体育祭本番だけ、白鳥沢学園男子バレー部の一員なのだ。白布君に、牛島君に、そしてバレー部に恥じない走りを見せなくてはいけない。

私がそう決意した頃、ちょうど目の前に白鳥沢の寮が見えてきた。主に推薦枠の生徒が使う寮は校舎から離れてはいるがそれほどの距離ではない。学校と駅との中間地点くらいだ。

「じゃあ牛島君、」

またね、今日はありがとうね、ごめんね、体育祭頑張ろうね。次に何と言えばいいのかわからなくて私が口をパクパクとさせていると、それを遮るように牛島君が口を開いた。

「送って行く」
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