▼ 32 ▼
流石は牛島若利というところだろうか。三十分後には私は焼きそばとチョコバナナとじゃがバター全てを手にして砂利道を歩いていた。有言実行の男である。だがこの買い物が機械的だったかと言うとそうでもなく、沢山ある屋台を見比べてどちらがいいと二人で決めたり、私の美味しそうに食べる様子を見て牛島君も一つ注文したりと、私達はすっかり祭りを楽しんでいた。この人混みや暑いくらいの照明でさえ愛おしいほどだ。
白鳥沢から程近い神社で行われるこの祭りには白鳥沢の生徒も多い。少し前の私では、牛島君とこの中を歩くなどとてもできなかっただろう。それ以前に牛島君とデートをするのでさえ大事件だ。
「なんだか不思議な気がするね。牛島君と私がこうしてるの」
思った通りに私が口に出すと、前方から声が返ってくる。
「俺も不思議な気分だ。俺に二回も好きだと言ってきた女と祭りにいるのはな」
「そ、そうだね……」
体育祭の時も、その前のバレーを習っていた時も思ったが、牛島君はたまに物凄くストレートに物事を言う。オブラートに包まない、と言うのだろうか。それでも全く牛島君を嫌いにならないのは、彼の根の人格に惚れ込んでいるからなのだろう。
「言っておくが俺は、今日はデートと言われてここに来たからな」
「へ?」
突然振り返った牛島君に、間抜けな声が出る。そんな私を見て牛島君はこちらに顔を向けたまま言った。
「前にもあっただろう。天童に唆されて、デートに行ったことが」
「ああ……」
そういえばあの時も天童君に約束を取り付けられて、私は一人でデートだと舞い上がっていた。だけれどもデートだと思っていたのは私だけではなかった、とあの日の帰り道に教えてくれたのだ。他でもない牛島君本人が。
「楽しかったな」
「うん……」
再び前を向いて歩き出した牛島君の後ろを俯きながら歩く。混雑した祭りでそんなことをするなど自殺行為に近いのだが、今の私は到底顔を上げられなかった。牛島君にデートだと認識された上に、楽しかったとまで言ってもらった。これ以上ないくらいに幸せで、私には受け止めきれそうもない。数ヶ月前「お前は誰だ」と振った男と、今私は祭りの中を歩いているのだ。
恥ずかしくて死にそう、嬉しくて死にそう。どちらでもいい、私はとにかく心だけどこかへ飛んで行ってしまったような心地でいた。だから、牛島君が差し出した手に気付けなかった。
「おい」
「どうしたの?」
さっきより増えた人の中で牛島君は振り返る。そしてもう一度、手を差し出す。
「人が増えてきた」
prev |
list |
next