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「おっはよーん!」
「ヒッ」

思わずそんな声を出してしまったのも許してほしい。朝自分の席へ向かった途端いきなり初対面の人物が横から顔を出すなど予想もできないだろう。もっとも、彼は私が一方的に知っている人物ではあるのだが。

「あの、私に何か用ですか……?」

あくまで私はあなたのことを何も知りません。部室からバレー部を眺めてなんていません。そういった主張を込めて、私は目の前の彼へ尋ねる。天童覚。牛島君と仲のいい、バレー部のレギュラーメンバーだ。

「いや、用っていう用もないんだけど」
「じゃあ何で……」
「だって気になるじゃん! 若利君に片思い中の女の子!」
「わーっ!」

天童君の大きな声をかき消すように私も声を張り上げる。幸い教室に人はいなかったがいつ来るともわからない。天童君は私の慌てる様子を見てケラケラと笑っていた。

「その様子だと、やっぱりまだ好きなんだ?」

天童君は急に真剣な目をしてこちらを見抜いた。それに圧倒されながらも私は頷く。

「まぁ、はい……」
「そっか〜! 健気だな〜!」

先程の真剣さはどこに行ったのだろうかと思わせる様子で天童君は空を仰ぐ。なんとなくこの人は敵でも味方でもないのだろうなと思った。私の牛島君への思いは知っている。けれど、積極的に協力してくれるわけではないのだろう。

「あの振り方されてまだ好きって、凄いよ君」
「見てたんだ……」
「うん、ごめんね? 若利君ったら変に鈍い所あるからさ、許してあげてよ」

そう言われても私は怒ってなどいないし、そもそもあの牛島君に怒れるはずもない。

「私は牛島君の鈍い所含めて好きだから大丈夫」

そう言うと、天童君はまた手を叩いて喜んだ。

「最高だよ。名前ちゃんこそ若利君の嫁に相応しい」
「よ、嫁…… ⁉」

認めてもらえたのは嬉しいが、段階をいくつか飛びすぎていないだろうか。私の困惑する様子すら天童君は楽しんでいるようだった。

「つまり、俺は名前ちゃんの味方ってこと」

耳元で囁かれた言葉に鼓動が跳ねる。それよりも、

「名前……」

いつの間に知っていたのだろうか。既に教室のドアへと歩き出していた天童君は、振り向きざまにこう言った。

「いや、同学年だし大体は知ってるでしょ、フツー」

その一言は、私の胸に深く刺さった。それでも牛島君は私の名前を知らなかったんだよ、とは言える程の仲ではないので胸にしまっておいた。
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