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クリスマスが終わり、大晦日が終わった。受験生にとって冬休みほど大事なものはない。クリスマスには一瞬期待をしてしまったが、そもそも私達は付き合っていないのだと思い直して勉強をした。後から聞いた話だが、牛島君はクリスマスに合宿があったそうなので自爆しに行かなくて本当によかった。それ以降は予備校と自習室を往復し、家でも勉強をするという日々が続いた。日課にもなっていた体育館覗きを卒業できたのは嬉しいようで寂しかった。牛島君がもうそこにいなければ、私は体育館を覗く意味がないのだ。

だがこの辛い受験生活の中にも一つだけ希望がある。一月二日、三時間だけ牛島君と大晦日に行くことを私は自分に許した。勿論合格祈願と、それから牛島君との恋愛が上手く行くこともお祈りするつもりだ。久々のデートどころか、学校がなかったので顔を見ることすら一週間ぶりだ。

私は下ろしたてのコートを着て牛島君を待った。そういえば、牛島君の私服を見るのは初めてかもしれない。

「すまん、待ったか」
「ううん、平気!」

私服の牛島君も大層格好良く、隣にいるこの人と私は恋愛関係にあるということが誇らしくなってしまう。人混みの中を縫うように歩き、私達は行列に並んだ。今度は牛島君から私の手を取ってくれ、私はそれを素直に握り返した。列に並んだ後も手が解けないのが嬉しかった。

「そ、そういえば年賀状ありがとう!」
「ああ」

別に気まずくはないが、順番を待っている間何か話したい。そこで私が持ち出したのが年賀状の話題だった。牛島君は律儀にも私に年賀状を送ってくれたのだ。牛島君に会えず勉強漬けの私にとってどれほど嬉しかったことだろう。丁寧な字で書かれた宛名、恐らく全員同じプリントだろう干支の絵、そこに一言加えられた手書きのメッセージ。それを私は何度も何度も読み返したものだ。

「元旦は会えなかったからな」
「そんなのいいよ全然」

本当は牛島君は初詣とは一日に行くべきと考えているらしいが、牛島君の家では一日は毎年親戚が大勢集まるらしい。ただコタツでテレビを見ているだけのウチとは大違いだ。だからこうして二日になったわけだが、私としては会えるのならば日にちなど全然関係ない。

この行列に並んでいる時間さえ愛おしく思いながら、私達の順番が来るのを待った。牛島君は何をお願いするの? と聞いてみようと思ったがそんなのは無粋だからやめた。きっと牛島君のことだからバレー関連だろう。私のこともちょっとは躊躇ってくれたら嬉しいけれど、私達のことは私が一緒にお願いしておくので大丈夫だ。牛島君は牛島君のことにお願いを使ってほしい。
ようやく私達の順番が回ってくると、私は牛島君の真似をして手を叩いて鈴を鳴らしてお願い事をした。数秒の沈黙の後、「行くか」と牛島君がまた手を繋いでくれたのが嬉しかった。
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