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 大学生活が始まった。オリエンテーションには殆ど身が入らず、皆が期待しているのは新入生歓迎会だった。大学生活は入るサークルで決まると言っても過言ではない。上下の仲を築いておかないと、後々困るのは私達自身だ。

 私は入学式の日にできた友達と相談しながらいくつかのサークルを訪れた。体育会系のサークルを訪れたのは、明るい集団への憧れと、高校時代バレーに打ち込んでいた牛島君を意識してのことだった。だが文化系の地味なサークルばかり回っていた私はすぐに後悔することになる。私が訪れたサークルは、騒ぐために集まっているような反りの合わないものだったのである。

 帰るタイミングを見計らいながら私はちびちびとお酒を飲んだ。新入生にお酒が出ることにも驚いたが、さらには酔った新入生を抱こうとしているのが驚きだろう。「お持ち帰り」とは本当にあるのだと、私は感動すらしていた。

 文化系のサークルで先輩に言われたことを思い出す。「ヤリサーの新歓なんか行って、ワンナイト狙いの男に処女奪われたらそれこそ最悪だからね」紛うことなき処女である私はその言葉に息を呑んだ。まだそんなに深い話はしていないが、大学で出来た友人は皆それなりに恋愛経験があるのではないだろうか。もう十八なのだから、共学に通っていればキスやセックスくらいの経験はあるものだ。ないのは私くらいではなかろうか。

 気落ちしたまま帰ろうと席を立つと、「え、もう帰っちゃうの?」といかにも軽そうな先輩が隣に来た。彼が所謂「ワンナイト狙いの男」だろう。

「すみません、用事があって」

 私は飛び出すように帰り、夜道を一人歩いた。


 翌日、半ば無理やり牛島君と会う約束を取り付けた。サークルを選ぶため新入生歓迎会には行きたいが、処女のままでは到底行ける気がしない。早い話、私は牛島君と事を済ませるために会ったのである。

「……それで、俺は棒扱いか」
「棒なんかじゃないよ! ただ私って遅いんだなって」

 話を聞いた牛島君は少し不服そうだった。都合よく扱われていると思ったのかもしれない。でも私はそういうことをするなら牛島君しか考えられないから牛島君を呼んだのだ。

「ダメかな?」

 祈るように牛島君を見ると、牛島君はわざとらしくため息を吐いた。

「今のお前は周りに置いて行かれて焦ってるだけだ。俺達は俺達のペースですればいい」
「でも……」
「俺以外とする予定がないんだったら、卒業が遅くなっても構わないだろう」

 そう言われればもう何も言えなかった。黙り込む私を見て牛島君が眉を下げる。

「変な男に捕まるなよ」
「うん……!」

 私は顔を上げた。その瞬間、唇に柔らかいものが当たった。私は思考停止して目を瞬く。目の前にあるのは、牛島君だ。

「牛島君……? 私達は私達のペースでするんじゃなかったの……?」

 牛島君は顔を離すと、居心地が悪そうな顔で別の方を見た。

「すまない。焦るお前が可愛かった」

 人に焦るなと言っておきながら、牛島君は今日この場でしてしまうのである。私は思わず笑い出した。これが私達のペースというものだろうか。

「最後まではしないのだからいいだろう」

 言い訳のようにそう言う牛島君が可愛くて、私は思わずキスをしたくなった。
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