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 牛島君とデートをすることになった。デートは宮城にいる時にも何度かしたことがあるのだが、恋人となってからは初めてだ。片思いばかりしていた時と、はっきり彼氏彼女と名が付いた今では心持ちも違う。私は興奮した気持ちでデートの服を選んだ。デート内容は無難に映画館だ。街歩きをすることになっても牛島君を楽しませられるよう、私は事前に近辺の店を予習した。寝て覚めたらもうデート当日になっている。期待で暴れたい気持ちを抑えながら布団に潜り込んだ時、スマートフォンがメッセージの受信を告げた。

「明日は待ち合わせの時間通りに来ればいい」

 緊張して三十分前に着く私を見越しているようで、私は思わず笑い出した。了解、というスタンプを送ってから再び目を閉じる。先程より、いくらか眠れそうだ。


 デート当日、私は結局十分前に到着した。牛島君の言うように時間通りではないが、一般常識の範囲内ではないだろうか。何をするでもなく突っ立っていると、牛島君がやってきた。

「まだ時間まで七分あるが」
「それくらい誤差の範囲内だよ。牛島君こそ私には時間通りに来いって言ったのに早いじゃん」
「俺の方が早く着くべきだと思ったからだ」

 牛島君は律儀なので、男が女より先に着いているべきだと思ったのだろうか。少し不服そうだ。私は少し笑って牛島君の隣に並んだ。

「まあ、遅刻はしてないしいいってことで。行こうか」
「そうだな」

 当たり前のように牛島君が私の手を握る。手を握ることなんて初めてではないというのに、私は中学生のように緊張してしまう。この間キスだってしたのに、今更何を照れているのだろう。だが私にとって牛島君とは、長年の片思い相手なのだ。これから先何をしても私は照れてしまうことだろう。

 牛島君はチケット売り場に着くと自然に手を解いた。名残惜しさを感じるが、片手が塞がっていてはできないため仕方ないと納得させる。今日観る映画は今話題になっている洋画で、好みのわからない牛島君でも楽しめると思う。座席に座ると、再び緊張が私を襲った。私の隣に牛島君がいる、それだけで頭の中を牛島君に支配されてしまうのだ。

 映画館に入るのが遅かったせいか、私達が席に着いてすぐに映画は始まった。老若男女に人気の映画だが、やはりロマンス要素もあったらしい。主人公とヒロインが熱いキスをし始めたところで私は恥ずかしくなってしまう。今は牛島君といるのに。いや、家族と観た方が気まずいに決まっているし、牛島君は私と付き合っているのだが、私達は付き合いたてだ。まだこの映画は刺激が強すぎる。

 二人がベッドにもつれ込んだところで私の顔が発火しそうになっていると、肘掛けに置いた私の手に何かが触れた。その何かは、私の手を握る。私は緊張で横も見られないまま唇を震わせた。牛島君が、再び手を繋いでくれたのだ。どうやらラブシーンに影響されたのは私だけではなかったらしい。真っ最中のスクリーンを観ながら、私はこの映画の主人公とヒロインに感謝した。
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