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天童君がどこへ進学したのかは本人に聞いたことがない。噂では地元の大学に進学したとか、東京の専門学校へ行ったとか、はたまた海外留学をしているというものまである。いずれにせよ天童君が元気にやっているということは確認できた。大学で過ごしていたある日、「よかったね」とメッセージが来たのだ。それは紛れもなく牛島君から私と付き合ったと聞いたという証拠だろう。天童君はどこかでちゃんと生活していて、牛島君と連絡を取っていて、牛島君は私との仲を付き合っていると認識している。嬉しくなった私は、スタンプではなく「ありがとう」と直接返した。面倒なことになりそうなので、天童君が今何をしているのかは聞かなかった。何をしているにしても、天童君なら上手くやっていることだろう。
スマートフォンを閉じると同時に、目の前に座っていた友達がSNSの画面を私に見せてきた。
「この先輩、超手早いらしいよ」
「ひええ……」
大学生といえば爛れた異性交遊であるが、生憎私はそういった人達の輪には入っていけない。私が一緒にいるのは、特定の恋人と過ごしているか、恋愛に貪欲ではない女子達である。授業で前の席に座っていた女子達が「今月処女」と話しているのを聞いた時は目が飛び出そうになった。
私達の敵はワンチャンを狙ってくる軽い男であり、酒の勢いに飲まれることは禁じている。世間一般の大学生のように自分の性に対してフラットになれないのだ。とはいえ私達の中にも、高校生時代に初体験を済ませたという者は多い。取り立てて聞いたら逆に目立つと思って聞いていないが、共学ならば高校生の内に済ませるのが一般的ではあるのだ。私も、友達からは牛島君と事を済ませたと思われていることだろう。そういった話題が苦手なふりをしているが、誤魔化すのもいつか限界がくる。早く卒業したい、と思うたびに「俺達は俺達のペースですればいい」という牛島君の言葉を思い出すのだった。
家へ帰る前に、牛島君の家へ寄る。私達の家は意外と近いので、頻繁に行き来をしていた。今日は一緒に夕飯を食べる約束をしている。牛島君はドアを開けて私を迎え入れると、「もう出来ている」とリビングへ通した。
「いただきます」
牛島君が用意していたのは、栄養たっぷりのスープとハンバーグだった。寮暮らしなので基本的に食堂で食べるが、こうして作ることもあるのだという。牛島君の手料理を食べる日が来るとは、まさに天にも昇る心地である。私は大学での出来事や新しい友達についてなど、取り止めのないことを話した。牛島君は時々相槌を打ちながら聴いてくれた。食べ終わってから、もっと牛島君に話してもらえばよかったと思った。
私は皿を洗った後、ソファに座る牛島君の隣に並んだ。間を詰める余裕はなく、人一人分空けている。流れでキスを済ませてしまった私達だ。これから何があるかわからない。私の期待を裏切るように牛島君は立ち上がり、「送って行く」と言った。
「……うん」
女子扱いをしてくれることは嬉しい。けれど、恋人扱いをしてくれてもいいのではないだろうか。少しの不満をポケットに押し込めて、私は牛島君の後ろを歩いた。
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