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どうして牛島君がここにいるのだろう。というか今は体育館に私と牛島君の二人きりだ。こんな状況、告白したあの日以来だ。煩く脈打つ心臓の音に混じって、牛島君の声がする。

「ここで何をしていると聞いている」
「あの……体育の先生にここで練習をするように言われて、バレーのテストで、」

途切れ途切れな上に文章として成り立っていないそれはちゃんと牛島君へ届いたらしい。牛島君は訝しむように眉を潜めた。

「ここは俺達が使うはずの体育館だが」
「えっと……」

そう言われても私にはわからない。私はただ教師に紹介された場所を使っているだけだ。そもそもバレー部は別の体育館を使うのではないだろうか。

「うちの部は第一体育館を主に使っているが、俺達主力メンバーはここで外部のチームと練習している」
「そ、そうなんだ……」

いよいよ私は邪魔であるらしい。緊張と申し訳なさで何も言えない私に見切りをつけたのか、牛島君は体育教官室の中へと消えた。そして少しの時間が経った後やはり眉を顰めて出てきた。

「バレーのテストで不合格だったらしいな」
「はい……」

牛島君に一番知られたくなかった情報を知られ体が縮こまる。体育教師め、余計なことを言ってくれる。

「ここの使用権はお前に優先的にあるそうだ。残念ながらな」
「え? はい……」

牛島君は不本意そうな顔で告げた。私からしても学校屈指のエース牛島君の方がコートを有効利用できると思うのだが、学園の設備である以上授業の体育優先らしい。

「お前の練習が終わるまで俺達はコートを使えない。早く済ませろ」
「はい!」

そう言って牛島君は体育館の隅で準備運動を始めた。まさかとは思ったが、再テストまでの一週間、一日三十分牛島君に見守られながらバレーをしなくてはならないらしい。



コートの外でできることは少ない。簡単な筋トレや柔軟を終えた牛島君は腕組みをして私を見ていた。その圧は凄まじいものだ。正直私がサーブを外しまくっているのは半分は牛島君のせいでもあるのではないだろうか。なんて、責任転嫁をしてみる。

「まさかの展開すぎてウケる」
「ウケない」

放課後練習を始めて一日経った昼休み、友人は弁当の唐揚げをつまみながら笑った。サーブテストをすぐにパスした彼女にとっては笑い事なのだろう。それに、彼女なら牛島君に対してもフランクに話しかけて友達にでもなれそうな気がする。

「告って振られた人に見守られながら留年のかかったサーブ練習するって、前世で何したのよ」
「本当だよ……」

よりによって牛島君の愛する(?)バレーボールである。私の痴態はより細かに牛島君に伝わってしまうことだろう。私は塩気の効いた卵焼きを一つ食べた。

「もういっそ話しかけてアピールしちゃえば? ここから彼女になれるかもよ」
「そんな雰囲気じゃないんだってば」

そう、そんな雰囲気ではない。放課後、またもや腕組みをしてこちらを見る牛島君を背後に私はそう思った。牛島君からしたら今の私は迷惑など下手くそだ。話しかけに行ったって、また迷惑を重ねるだけだろう。今日も三十分間黙々とサーブ練習を重ねると、前よりはいくらか入るようになった、気がした。
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