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三日目、四日目ともなるとある程度安定した球が打てるようになってきた。後はコントロールなのだが、その前に一つ課題がある。ネットをきちんと超えられるかだ。今まで私はネットを張らずに練習してきたが、もうそろそろ張ってもいいのかもしれない。

授業での流れを思い出しながらポールを運び、ネットを棒の部分にかける。後は数点リボン結びをすれば出来たはずだ。ポールの脇で苦戦していると、突然後ろから声がした。

「やり方が違う」

この声は、この体育館にいるのは、一人しかいない。牛島君だ。私の心臓の鼓動などいざ知らず、牛島君は私の後ろから腕を伸ばしてネットを張った。私の両脇に直に伸びる腕に釘付けになっていることなど牛島君は気付かないだろう。

「何をしている。お前はあっち側を張れ」
「あ、はい」

牛島君に乙女のときめきなど理解できないに違いない。私は牛島君の腕の下を潜ると牛島君とポールの間から脱出した。言われた通りに反対側のポールへネットを張ろうとしたが、今までの緊張で手が震えるばかりだ。きっとまたどんくさい女だと思われていることだろう。それでもいい。今日の私は、幸せすぎた。



恋愛に浮かれている暇などなくテストの期日は迫ってくる。牛島君の貴重な練習時間を奪っているということを自覚し、私は真剣に練習に取り組んだ。その結果前よりは確実に上達したと思う。

相変わらず腕組みしてこちらを見る牛島君を盗み見ると、仏頂面と目が合った。早くバレーボールをしたいと考えているのだろうか。ごめんなさい。早く退きます。
期限の三十分が近付いた時、入り口から複数の男子の声がした。

「今日はちょっと早く着きすぎたか?」
「いんや、若利君はもう始めてるみたいよ」

恐らくは牛島君の言っていた「主要メンバー」だろうか。仲良く話しながら入ってきた彼らは、私を見て動きを止めた。その後仁王立ちをする牛島君を見て、また私を見た。どうやら完全に困惑しているようだ。

「若利、誰だよこの女?」

さて何と自己紹介しようか。バレー部の方達なのだから、私がサーブテストで酷い成績を取ったところから説明する必要がある。そんなことを考えていた時、牛島君がおもむろに口を開いた。

「俺のことが好きだそうだ」
「え?」
「……へ?」

いや、確かにそうだけれど。それは一体今言う必要のあることだろうか。一瞬にして凍る場の中で牛島君だけが平然としていた。いつのまにか体育館に入ってきていた天童君が一人、堪え切れないというように笑っていた。
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