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無一郎と私は並んで地面に座ると、頭上を見上げた。この世界は暗くはあるものの、現世のように星は見えない。むしろ星になっているのが私達なのかもしれないと思うと不思議な気持ちになってくる。しばらくは二人でそうしていたが、沈黙に耐えかねて私は口を開いた。

「無一郎が私の知ってる無一郎の死んだ姿じゃないならさ、今私の隣にいる無一郎は生きてる間どんな人だったの?」

発したのは、前々から感じていた疑問だった。無一郎が私の知っている無一郎ではないとしても、容姿も性格も瓜二つの彼がどんな人物だったのかは興味がある。もしかしたら、私の知っている無一郎のご先祖様だったりするのだろうか。頭上を見上げていた無一郎は、意外にも嫌そうな顔をした。

「一応、生前のことは聞かないっていうのがここでのマナーなんだけど……」
「え? そうなの?」

そういえばしのぶも、姉がいることなどは話してくれたが生前のことには何も触れなかった気がする。そうなると、この世界で親しげだったお館様やしのぶとは生前の知り合いなのだろうか。

「まあいいや。教えてあげる。僕は政府非公認の組織で、人を助ける仕事をしてた」
「へぇ……」

私の知っている無一郎は決して悪人ではなかったものの、積極的に人助けをするというタイプでもなかったので驚いた。政府非公認という言い方が気になるが、お館様の前の態度でも感じたようにやはり無一郎達は昔の人なのだろうか。

「結局それが原因で死んじゃったけど。無駄死にになってなければいいんだけど」
「無駄死になんかじゃないよ!」

私は思わず声を上げていた。今目の前にいる無一郎のことなど何も知らない。ましてや生前のことなど想像もつかない。だがこれだけは確かだ。私が死後の世界に飛ばされた時、私は無一郎のおかげで一人じゃなくなった。

「少なくとも、死後の世界で無一郎に出会えたことは嬉しいよ……」

独り言のように私が言うと、意地悪な顔をして無一郎が「自分の知ってる時透無一郎とは違うのに?」と言った。

「それでも! 私にとっては死後の世界とかいう意味の分からない場所に飛ばされて、見知った顔がいるだけで安心するものなの!」
「ふーん。付き合ってたんだもんね」

無一郎が発した言葉に思わず私は動きを止める。確かに会ったばかりの頃言ってしまったような気がするが、こちらの世界の無一郎と親しくなれた今となっては気まずい種だ。

「お、覚えてたの……?」
「こんな短期間で忘れるわけないじゃん」

無一郎は仕返しとばかりに私の顔を覗き込むと、楽しそうな顔で告げる。

「で、僕達付き合ってた時はどんな感じだったの?」

誰か、助けてほしい。私は星のない空を見上げながら思った。