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私達がまた手を取り合って戻ったことで他の船員には揶揄われてしまったが、それも気にならなかった。本来ならばここで降ろされていたはずの島。しかし私は紛れもなく白ひげ海賊団の一員になれたのだと、エースの背中の刺青を見ながら思った。

四番隊隊長のサッチさんが悪魔の実を手に入れたこともあり、その日は盛大に宴が開かれた。私にとっては初めての宴である。当然エースを見習うことになるのだが、エースはといえば宴の最中で突然寝たり能力を使って宴会芸をしたりしていて全く参考にならなかった。私の能力でエースに触れエースを脱力させればみんなにはウケるだろうが、私がエースに怒られてしまう。仕方なく私は適当に酒を飲み、話の輪に入ったり宴会芸を見て笑ったりした。「名前ももう立派なウチのクルーだよい」マルコさんにそう言われて嬉しかった。このまま、私の新しい人生が始まるものだと思っていた。


翌朝目を覚ますと誰もが青い顔をしていた。昨日の宴で二日酔いになったのだろうか。みんなの元へ行った私は、その騒ぎの中心にいるのがエースだということに気付いて顔色を変えた。

「ティーチはおれの部下だ! おれが追う!」
「いや……今回は行かなくていい」

聞いたことのある言葉が、場面が、目の前で繰り返される。余程酷い顔をしていたのか、下っ端仲間の一人がこっそり私に耳打ちしてくれた。

「ティーチがサッチ隊長を殺してヤミヤミの実を奪って逃げたって」

その声が二重になって聞こえる。今になって気付くなんて、なんて愚かなのだろう。私はこの状況を、この世界を知っている。ここは元の世界で有名だった漫画、ONE PIECEの世界で今は頂上戦争編に差し掛かるところなのだ。誰もが気まずそうに俯いている中、私だけは違う理由で青ざめていた。

勝手にこの船の一員になれたかのように思っていた。でも私はこの世界の住人ですらないのだ。私は最初から、疎外された読者の一人だったのだ。それも、どうしてこのタイミングで気付いてしまったのだろう。

そんなことを考えている内にエースは飛び出してしまった。ONE PIECEの読者ではなかった私でも知っている。この事件をきっかけにエースは海軍に捕まり、殺される。エースの顔やビスタさんの名前を知っていたのは所々を見たことがあるからだろう。原作として正しい流れに辿り着いていると知りながらも、私は抗いたい気持ちが生まれているのを無視できなかった。

本来ここは漫画の中の世界であり、私が干渉することは許されない。今ここでエースを助けたとしても本来エースの死によって導かれる展開のいくつかが変わってしまうかもしれない。私がいくらエースを助けたいと思っても、エースの死はこの世界で決められた運命なのだ。分かっているのに、私の足は言うことを聞かない。

「オヤジさん、外泊許可をください」

詳しいことは告げずにそう言ってもオヤジさんは全てお見通しのようだった。

「エースは行かせてお前は行かせないんじゃ、不公平だよなァ……」
「ありがとうございます!」

私は頭を下げて船の出口へと向かう。私はエースのように独自の移動手段を持っていないから、民間の船を使って行くことになる。だが行先は知っているので大丈夫だ。偉大なる航路のバナロ島。エースはそこでティーチに敗れ、海軍に引き渡されることとなる。もう船を出てしまったからには戻れない。私は絶対に、エースを救ける。