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次の朝起きると、エースはこの世界について簡単に教えてくれた。ワンピースを求めて沢山の海賊が海に出ていること、それらを世界政府が取り締まり、王下七武海なるものも存在すること。ここは偉大なる航路の新世界であり、今いる島は比較的治安が良く食糧調達にも適しているのだとか。
「にしても、驚かねェもんなんだな。話聞いてると、名前の世界とは別モンだろ?」
確かに私の世界からは酷くかけ離れている。だが不思議と私はすんなり受け入れられてしまうのだった。
「小説とか、よく読んでたからかな……」
まあ、私が読んでいたのはいわゆるファンタジー系やライトノベルではなく純文学なのだけど。エースは小難しそうな顔をした。大方活字は読まないのだろう。エースとは知り合って間もないが、何となくエースがどのような人間であるかは察しがついてきた。昨晩私を置いて爆睡していたことといい、エースは少年のような純粋な人間なのだろう。
「まァいいや。おれは用も済んだし、この島を出る。お前はどうする?」
エースは今度こそ試すように私を見た。私は突然この世界に飛ばされたよそ者である。知っている人間はいないし、唯一知り合ったのは目の前にいるエースだけだ。これから偉大なる航路という荒れた海を一人で渡る勇気もない。別世界から来たなどという素っ頓狂な話を信じてくれる純粋な人間が、エース以外にいるとも思えない。
「連れて行ってください……!」
私が頭を下げると、エースはその大きな手を私の頭に置いた。
「ここまで世話してやったんだ。面倒は最後まで見てやるよ」
「ありがとう!」
こうして私はエースのボードに乗ってエースが普段生活しているという船に戻ることになった。勿論その船の船長が私を受け入れてくれるかは分からない。ダメと言われればまた一からやり直しだ。それでも、できることなら私はエースという知り合いの元で過ごしたい。
触れられそうな距離で海を眺めていると、エースはボードを操作しながら「それにしても不思議だよな」と言った。
「何で名前はあの時海に浮かんでたんだろうな」
「さあ、私は部屋にいたはずなんだけど……」
私の家は海なしの県だし、この世界に来る前溺れていたということもない。海から人が浮かび上がってくるとはなかなかにホラーだ。私がそんなことを考えていると、頭上でエースが笑う声がした。
「お前は正真正銘、海の子なんだろうな」
正直私には何がそんなに可笑しいのか分からないのだが、エースが楽しそうなので何も言わないでいた。何か海に思い入れでもあるのだろうか。そのまま航海していると、エースが眼前に迫った巨大な船を指差して言った。
「ほらよ。これがおれ達の海賊船、モビーディック号だ」
そのあまりの大きさに私は思わず口を開けて船を見上げてしまう。それより、聞き逃せない言葉があった気がする。
「海賊って……?」
恐る恐る尋ねた私に、エースは嬉しそうに笑って答えた。
「言ってなかったか? おれは四皇白ひげ海賊団のクルー、二番隊隊長だ。ここに来て二年は経つかな」
私は言葉を失いながらエースを見た。この世界で初めて出会った親切な人。それがこの海で一番出会いたくないと思っていた海賊だったとは。つまりエースは略奪や殺しをするのだろうか。固まってばかりの私の首根っこを掴んで、エースは海賊船の甲板に着地する。いつの間に持ってきたのかボードも一緒だ。思わずエースの方を振り向くと、エースは「これでお前も海賊だな」と笑っているのだった。